命を耕す 29
「人間のからだには心臓が三つある。一つはわれわれの心臓、一つは横隔膜、もう一つは筋肉である。つまり三つの心臓がある。
ふつう医学部の生理学の授業では循環器というのは心臓と動静脈、大体これで終わっております。こういった心臓の外に第二、第三の心臓があるということはいわゆる古典的な教科書には書いてございません。
しかしながら改めて丹田呼吸の世界からこれを見ますと、この見方というものは正しく脊椎動物の形態学の真髄をうがった言葉であるという外はありません。・・
調和息の要ともいうべき横隔膜の問題について振り返ってみたいと存じます。そもそも横隔膜とはどこから来たかと申しますと、蛙(かえる)の「のど」を見ると、そこはふくらんでいる。かれらはここに息をためて、この筋肉で肺の中に空気を送り入れる。
つまり頸(くび)の全面の筋肉を使って、肺に空気を入れたり出したりしているのです。要するに蛙は頸で呼吸している。ではいったい、この蛙の頸の筋肉が人間ではどうなっているのでしょうか?
もちろん、同じものがわれわれの頸の全面に短冊のように左右一本ずつ平行に走っております。ところが人間ではこの筋肉が胸のところで無くなり、再び腹直筋となって、お腹の正中を下がり、やがて骨盤の出口の筋肉に変わる。ずっとこのようにからだの前面正中線に沿って二本並んで走るのです。
われわれ人間の外陰部の複雑な筋肉や肛門の筋肉は、要するにこの頸から腹にかけての筋肉の一番下の部分に当たる。
そして話のついでですが、舌を動かす、これも複雑な筋肉ですが、この舌の筋肉は、反対に一番上の部分に当たる。
つまり舌から頸・腹を通って陰部までこの筋肉群はえんえんと続いているのです。
そしてその頸の筋肉の一部がずっと落ちこんで出来たものが横隔膜であります。
つまり横隔膜は、蛙がふくらましていた頸の筋肉と親戚のものに当たるということになります。
神経をたどっていくと一緒になっているのでわかります。胎児で見ますと頸の筋肉がちぎれて心臓と肝臓の間に入りこんでいることがわかります。死体を解剖して頸を見ますと横隔膜を動かす神経と腕を動かす神経が一緒のところから出ています。
手の運動と横隔膜の運動は同じところから出ています。また、手と足も中枢神経の仲介で運動しております。
調和息のときに大切なこととして、姿勢とかあるいは他の運動との連動が要求されるのは以上のようなわけだと思います。
( ※ 横隔膜の由来 横隔膜の筋肉は、舌と同じ前頸壁の直筋系に由来する。その支配神経は、頸直筋や腕の筋肉と同じ頸神経の枝(横隔神経)である)」
引用 三木成夫『人間生命の誕生』築地書館
頭でっかちの現代人は自分たちが高度な教育を受けて、科学的な思考が出来ると錯覚しているが、
私たちは実はこの自分の体の本当の仕組みを誰からも教わっていないし、それゆえにどのようにしてこの体を使うのが一番いいのか?もまったくわかっていない。
ようは身心の仕組みをまるで知らなくて生きているのが現代人なのだ。
だからみな健康に不安を抱え、チマタのワケの分からない健康情報に振り回され続けている。
本稿の冒頭文はかの三木成夫博士の秀逸な言説の一部である。
古今東西の博識をもってして視野の広さでは本邦随一の医学者ならではの「人体取り扱いマニュアル」の一端がここに開示されております。
第一の心臓であるいわゆる解剖学や生理学が通常医学で教える心臓とは別に、第二の心臓としては横隔膜、そして第三の心臓として筋肉がある、
との指摘はなんともクールで目が覚める思いが致します。
この冒頭文は丹田呼吸法のある会における講演録であります。
さて、この引用文における私にとってのアヴァンギャルドなとっておきのキモとなる部分は、
「舌から頸・腹を通って陰部までこの筋肉群はえんえんと続いている。頸の筋肉の一部がずっと落ちこんで出来たものが横隔膜」
のココです。
先頃から少しづつ触れている気功における呼吸法の話題の中で、わたしは舌ベラの先端を意識的に挙上させて、上歯の背側である上口蓋に舌の尖端を付けて、
鼻から空気を吸い込むという呼吸術を話題にしておりました。
この舌を上アゴにくっつける呼吸の意味については、気功的には体の前面と背面の経絡をつなぐ意味があると言われておりますが、実際に舌を上アゴにつけて鼻から空気を吸い込むのは、
慣れないあいだは何か違和感がございまして、舌を上げることの本当の意味も計りかねておりました。
しかし、この三木博士の冒頭文を読んだ瞬間に、電撃閃光が脳内にフラッシュし、一瞬にして舌上げの解剖学的な意味が氷解したのです!
つまり舌先を呼吸と連動させるということの意味は、この
「舌から頸・腹を通って陰部まで筋肉群、頸の筋肉の一部がずっと落ちこんで出来た横隔膜」
のすべてを刺激すると言えそうなのです。
ダテに舌使い呼吸法の秘技は2千年続いてきたわけではなかったようです。
それで、ようは舌を上アゴにつけるだけでなく舌を色々と動かすだけで、
もしかしたらこの蛙のノド笛から続く生命史に由来する由緒正しき頸直筋、腹直筋、骨盤底筋群、横隔膜のすべてを
インスパイアーできるのでは?と思うに到りました。
それで舌は牛タンのタンですから舌を積極的に運動させる方法を
舌を挙げるという意味で、「アップ・タン 養生術」と命名して、
これから少しづつ我が身の養生法ライフに取り入れて修練実践を積んでいこうと思っております。
基本は舌ベラを上アゴにつけることになりますが、それだけではつまらないので、舌を突き出したり、
ローリングストーンズのアイコンみたいにベロ出ししたりと、色々と舌の運動を探ってみます。
そうすることで、第二の心臓である横隔膜が刺激されて横隔膜の運動も盛んになり、
また横隔膜や腹直筋や肛門括約筋や手足なども意識して連動させることで、
第三の心臓である各種の筋肉領域へと自分の意念を通じさせていくプログラムです。
人類は文明を興して1万5千年ほど経て、やっと、ようやく舌の正しい養生法をここに獲得しました。
今日は記念すべき、「舌使い養生術」の誕生日です!
ハッピー・バースデー!
「アップ・タン・ガール」「アップ・タン・ボーイ」
が新世紀の養生法を切り開きます。
これじゃあ、まるでビリー・ジョエルの曲名だよなぁ(笑)
2015.04.25 | | コメント(5) | トラックバック(0) | 鍼灸指圧