ぬくもり 13

「私が1974年、1975年に訪中した際に、医師である韓済生氏はウサギを使って、鍼治療や指圧治療が痛みを軽減できる事の科学的な裏付けとなる「疼痛閾値の上昇」として知られている実験を私に見せてくれました。ウサギの足の三里穴というツボに鍼を刺した後には、疼痛閾値は128%まで上がり、また崑崙(コンロン)というツボに、1秒あたり2回の頻度で指圧をしたら、疼痛閾値はなんと133%まで上昇しました。つまりは鍼治療でも指圧治療でも、痛みを軽減する効果が顕著だという確実なデータがプラシーボ(偽薬効果)が一切効かないウサギの実験で判明したのです。一般の科学実験と同様に対照群もテストしましたが、こちらの疼痛閾値には当たり前ですが、いっさい上昇は見られませんでした。実験の詳細はというと介入群と対照群と共に10匹のウサギを使用し、痛みの測定は、目かくしをしたウサギの鼻孔に強い熱放射を当てて、ストップウォッチで明らかに痛みを示した後に、ウサギが頭を片側によじって痛みをはっきりと示すまでの時間を測定しました。韓博士による実験で最も興味深いものが次ぎの実験でした。まず1匹のウサギにツボ指圧をして痛みの限界を上げておいてから、この疼痛閾値が上昇したウサギの脳脊髄液を抜き取り、2匹目の別のウサギの脳にこの抜き取った痛み限界を上げたウサギの脳脊髄液を注入します。この場合にも驚くべきことに、ツボ指圧を行わずに同様な実験をしたウサギに比べて、なんと82%もの疼痛閾値の上昇が2匹目の脳脊髄液を注入された別のウサギに見られたのです。この一連の実験からは、適切な鍼治療や指圧治療が行われた時は、脳のいわゆる「神経伝達機構」に変化を与えることが分かりました。ウイーンのボルツマン神経科学研究所のビルクマイヤー教授は、人間の神経伝達機構に対する鍼治療の効果についての研究をおこないましたが、その結果はこの中国の実験結果を確認することになりました。韓博士によれば、その他の動物に対する電気生理学実験では、筋肉や腱に対する強い圧力は、ネズミやウサギの脳の視床や、あるいはモルモットの脳内網様体における神経核の神経興奮状態を抑制する効果があると結論しております」
参照「Dr.Med.Frank R.Bar著 𠮷元昭治・星野益孝訳『耳と体のツボ指圧』谷口書店」

エビデンスという「言葉の黒船」が大挙して我が国の医療業界に到来した際に、私も

「えっ、エ・ビ・デ・ン・ス? はっ、何のこっちゃい?」と思い、

慌てて税込み、5000円もする立派な分厚い「監訳者・津谷喜一郎『鍼のエビデンス』医道の日本社」という当時、発刊されたばかりの本を入手しました。

この本の内容は英国で季刊として発行されている
『 Focus on Alternative and Complementary Therapies ( FACT)』誌の中から、

鍼関係のランダム化比較試験の結果論文ほかの東洋医学関連の論文を、150編余ほど第三者のコメント付きで、共同で翻訳し、抄録したものです。

それでエビデンスなるモノの正体はこの本をザッと読んだその折りにザックリと理解したのですが、実はいまだにこのエビデンスなる言葉を私は好いておりません。

ただし、時代はエビデンスなき医療は認めないのですから、時代の流れとしては鍼や指圧や灸のエビデンスが明確になることを、もちろん私も希望しております。

なにしろ、今やネット時代を迎えて、健康指南番を自認するシロウトやクロウトが百花繚乱の賑わいを見せており、そのなかには極めていかがわしい言説がおびただしいまでに散乱しております。

こうしたウソとマコトが入り乱れる養生カテゴリーにおいては、やはりエビデンスが明確となっている情報コンテンツが信用されて、結果としてそうしたホンモノのみが今後は生き残っていくであろうことは容易に予測できます。

ちなみにエビデンスとは「ある治療手段における、それが「効く」あるいは「安全」と判断される根拠のこと。エビデンスには、治療の他、予後、診断、経済分析などもある」と、先の分厚い高価な本のEBM( evidence based medicine )関連用語集にあります。

鍼の実在した確かな痕跡は今から3500年前頃に栄えた中国は殷王朝の遺跡から出土しており、つまりは鍼治療の歴史はここ東アジアにおいては、すでに軽く3000年の歳月を経過して、その過程で鍼医たちにより人々の治療救済を通してその医術も洗練の度を増して、今現在に至っているのだ。

私たち鍼灸師に言わせれば

「エビデンスだって?何を今さら!だって、すでに中国や韓国や日本の東アジア地区でずっと鍼医たちの実践を通して鍼治療の有効性が立証されてきて、日本の東洋医学界は明治維新やGHQによるとてつもないイジメを受けながらも、民衆が鍼灸指圧を慕ったからこそ、今日ここまで鍼灸指圧術は廃(すた)れることなく永続できたのであり、だから東洋医学のエビデンスは東洋医学の歴史、東洋医学そのものに決まってるじゃん!」

なんです。本音はね。

でもエビデンス利権の黒船が到来した以上は、エビデンスを担保にしなければ東洋医学もこの先、生き残っていけません。

冒頭のウサギに対する鍼治療や指圧治療がもたらすβエンドルフィンによる鎮痛効果の実験など、実に素晴らしい、まさに東洋医学によるエビデンスの宝です。

「指圧の心 母心 押せば命の 泉湧く」

浪越徳治郎先生も、この指圧による鎮痛効果のエビデンスの素晴らしさに触れて、天界でさぞや、呵々大笑していることでしょう。

「ハッ、ハッ、ハッ!」

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2015.03.20 | | コメント(2) | トラックバック(0) | 命曼荼羅

コメント

ワラ一本の革命って本思い出しマジメトーンに、

■ワラ一本の革命という本がありましたが農の根本を問
うもので今もココロに残る一冊です。 
★もともと人間も自然の法則の中で生み出された存在であり自然のルールに沿って生きてさえいれば身も心も落ち着き病んでも死にそうになっても現代社会ほど大慌てもなく淡々と対処する道筋があったハズで、進歩だの進化だのはあるにせよ肝心の生き死に際して昔以上にパニクる状況はどう考えても怪しく不自然でイッタイ人間は幸福に向かってシンポしてきたのかとチャブ台があればヒックリ返したくなる毎日です。
■カラダは宇宙や地球の相似であって崑崙山から入る龍脈が日本や東京の繁栄を支えてきたように押せばイノチの泉湧くコンロンを風水師今村先生がアストラル、幽体レベルで探知、手当てする技など世人の理解の及ばぬことであり東洋の知恵、中国四千年の年期の凄さに日々心奪われる毎日でホント言葉もありません。
★で、農もカラダの論理超えて脳が割り込んでくると効率だの利益だの管理だの支配だのとロクなことがなくドンドン自然の法則から遠ざかって行くのみで結果は人間疎外みたいな不幸感しか残らずホント進化って何よ成長ってイッタイ何なのみたいな問いかけで今回の文明も終わりそうなこの頃です。
■地球と自分を救ってくれるものがあるとするなら多分それは今まで一顧だにしなかったような存在とかメカニズムなんだと思います。 今村先生が本ブログで説いてきたセントラルドグマを操る宇宙の法則であり自らの足元や腸内に棲む微生物なんだと。 (今回マジメトーン)

2015/03/20 (金) 18:06:48 | URL | koganei #- [ 編集 ]

ありのまま

とか、あるがまま、とか、諸行無常とか、そのへんなのかもね。

「わら一本の革命」の著者で自然農の神様みたいに崇められてる福岡正信翁の思想も、

中国哲学の道教の道(タオ)思想や、老荘の無(ム)に通底するものがあって、

そもそも自然はそれ自体が自律しているから、そこにゆだねて、人智をなるべく働かせず、あきらめて、自然になるべく介入しないという発想から

不耕起、雑草放置、無農薬、みたいな福岡式の自然農が生まれたんだと思う。

お弟子さんで奈良で自然農をされている川口由一さんに実際にお会いして、話しを聞いたことがあるし、彼の著書「妙なる畑に立ちて」も読んだけど、

川口さんは漢方薬もものしているので、医療にも一家言あるし、原発についてもこの本の中で彼独自の言葉で糾弾してる。

クスリをなるべく使わない小児科医の真弓定夫先生も早くからずっと原発に反対していた。

この文明の居心地の悪さってのは、結局は、自然を破壊し続けている事に対しての後ろめたさ、だと思う。

医療もふたことめには「医学は進歩した」を自称しているんだけど、「指1本の革命」を成し遂げた指圧界の帝王、浪越徳治郎先生や、

「もぐさひとつまみの革命」をやった深谷伊三郎や、「鍼一本の革命」を今、現在敢行している藤本連風氏や、横田観風氏や、

鍼だけでなく筆でも革命を起こそうとしている鍼灸師、鍼灸ジャーナリストの松田博公氏などを

はじめ日本に今いる志しの高い鍼灸師たちやこれまで日本の東洋医学界に在籍した無数の術者たちに対して、

医学は進歩したと、チャラくうそぶく連中は、これまで東洋医学など全然すべて激スルーで、一顧だにしてこなかった。

そのへんの健康オタクも一緒。

なにが医学の進歩なんだよ!ってね。

エビデンスなんて新手の利権でね、エビデンスネタでメシを喰うような学者みたいなのを増殖させた程度のこと。

まあ西洋医学界のグローバルスタンダードを東洋医学界に押しつけてきたのが、エビデンスという黒船という理解でイイと思う。

ただエビデンスにも一定の価値はある。世間には余りにいい加減な健康情報が溢れてるからね。

しっかりとしたデータが取れた医療を評価する指標にエビデンスが果たす役割は大きい。

でも本来的に、命というのものは実に奔放で、複雑系で、非線形的で、カオティックなものだから、

線形的な実験的なデータ採取という手法は、in vivo な生体系の観察には不向き。

とくに鍼灸指圧の刺激を定量化するのは至難のワザだし、プラセボ鍼のニセ鍼ですら、

皮膚は触られた刺激を受容して反応してしまって、対照群を作るのすら難しいケースもある。

だからある意味、科学的なエビデンスといってもそれは専門家に言わせれば「エビデンスはアート」だ、と言えるそうです。

医学は「サイエンスに基づいたアート」であり、つまりはEBMは「エビデンスに基づいたアート」ということです。

元来、命は非常にアーティスティックなシロモノですから、医学がアートとは合点できる結論です。

どんな絵を、どんな立体を、どんな日本画を、日々、生み出せるか?を

私たち鍼灸師はヒトサマの体をキャンバスに見立てて、なにがしかを表現しているのでしょう。

しかし、命はこちらがどうこうしようもないほどに自由気ままですから、

絵を描く前に、勝手に動き出したり、描いてる最中に飛び立つこともままあるでしょう。

晩年に高所から落下して骨折を余儀なくされた長谷川等伯は当時、の本邦一の鍼医、曲直瀬道三(まなせどうざん)の鍼で治療し、復活したと言います。

東京国立博物館に仕舞われている国宝「松林図屏風」を描いた等伯。

あんなサラッとして幽玄で洒落た鍼灸指圧が出来れば、指いっぽんの革命が出来るかもしれません。

2015/03/21 (土) 06:29:45 | URL | 養生法の探求 #- [ 編集 ]

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