癒しの原点 9

「人身は元気を本とす。穀の養(やしない)によりて、元気生々としてやまず」

現在のシリア北部、カラカダー山脈にあるアブ・フレイラ遺跡から出土した穀類アインコルンはすでに8500年前の当地で人類が穀類を栽培していた痕跡とされているが、

人類が最初に穀類を栽培化したのは定説では今から約1万5000年前にさかのぼるとされる。エンマーコムギの栽培はシリア・アブ・フレイラにおいては1万400年前にその痕跡が認められ、

ライ麦や大麦はトルコ南東部から地中海東岸にかけて広がっていた肥沃な三日月地帯の西半分で1万年前から栽培され、9500年前の地層からは大量のアインコルンが収穫されていたことが分かっている。

ちなみに、人類がオオカミの中から良く吠えて優しい性格のものを選んでイヌに家畜化したのは、ユーラシア東端の東アジアであり、時期は1万5000年前と推定されており、

ヒツジとヤギは1万〜9500年前に恐らくはすでに地球全域に拡散していた人類に共時的に家畜化され、欧州に棲息していた野生牛オーロックスからウシを、野生イノシシからブタを飼い慣らして家畜にしたのは8000年前、

そして6000年前になりユーラシア大陸は中央ウクライナからカザフスタンのユーラシア・ステップで野生馬が手なずけられてウマとなり手綱とアブミが乗せられたとされる。

現生ホモサピエンスである私たちのご先祖様の150人の小集団がアフリカを旅だって、バブ・エル・マンデブ海峡を越えて世界中に拡散していったのは、今から5万年前とされるが、

この人類のグレートジャーニーも4万年ほどが経過して後の旅の後半になって、ようやく人類はそれぞれの安住の地を見つけて、定住を始めたようだ。定説では定住と農耕のスタートをワンセットでとらえるのだが、実はこれもそれほど信頼に値する仮説ではなく、

定住しながら農耕などせずに狩りを専門にしていたり、移住と定住を繰り返しながら狩りや採取生活をしたり、定住と狩りに農耕がプラスされたり、意外にも定住にもバリエーションがたくさんあったことが近年になり古人類学者から指摘されている。

1万8000年前に現在の中東付近に起こったナトゥフ文化においては、マンモスの骨と皮で建てた住居で暮らし、遡上してくるサケなどの食料源が豊富で、ヘーゼルナッツなどが簡単に採取できる場所に人類が定住を開始していたことが判明している。

4万年の旅路の果てに「ここなら何とかやっていけそうだ」、という場所をようやく見つけて、その後、野生ムギなどの穀類を栽培化し、オオカミを飼い慣らして番犬と暖をとるためのイヌを愛玩するようになり、

ヒトはついに安定した暮らしを確保して、やがて文化を生みだして文明を創成したのだろう。

つまりここ1万5000年の人類文明は言い換えるのなら定住文明であり、栽培家畜化文明であり、農耕文明であり、「穀類文明」であったと言えるのだ。

現生の地球生命種130万種を見渡して、文明というものを生みだして、過酷な地球の自然環境ストレスからみずからの種を守るバリケードを築き、ここまで繁栄した種族はヒト族をおいて他にはない。

無論、近代科学技術文明の功罪の罪については、今後も厳しく断罪し徹底的にその非を洗い出して、テクノロジーをより一層洗練させて環境共生型の科学技術を一刻も早く生み出すことは喫緊の課題であるが、

今しばしその問題を脇に置いて、ホモサピエンス5万年史を振り返れば、やはり人類は穀類を摂取して安定して糖質を摂取することができたお陰でこれだけの個体数の増加を実現し、輝かしき文化文明を築いたことが認識できてくる。

糖質制限というイヤラシイ言葉がいつからか流行して、まるで糖質・炭水化物である穀類がワルモノであるかのような標的とされ、この穀類を断てば健康になれると思わせる意味不明なダイエットがちまたを風靡して久しいのだが、

あらゆる意味で人類が刻苦精励して野生の穀類を栽培化してきたここ1万5000年間の農耕史を冒瀆するような、いい加減な糖質制限ダイエットの流行は断じて私としては許すわけにはいかないのだ。

ヒト細胞の細胞膜にはグルコーストランスポーターと呼ばれる糖質を専門に取りこむための輸送口が装備されている。これは何を意味するかと言えば、糖質が絶対的に細胞生理に必須な素材であることの証拠なのだ。

なにをもって糖質を制限しろと言うのか?細胞にしろ、脳にしろ、筋肉にしろ、身体生理に備わった機能は使用しなければ「ルーの法則」に従って、廃用性萎縮が引き起こされて、その機能を失調してしまう。

もしも糖質を摂取しない生活が続けば、細胞膜のグルコーストランスポーターはその機能を失い、やがて細胞は死滅するだろう。血糖値が低下し過ぎて昏睡状態になることが病理現象として現に存在することは誰もが知っていなければならない医学的事実だ。

ヒトが摂るべき正しい食事とは何なのか?

かつての世界三大長寿村であったパキスタンはフンザ王国、旧ソ連コーカサス地方、南米エクアドルはビルカバンバ村、

そして新長寿村のブルーゾーンと呼ばれるイタリアはサルディーニャ島、中米コスタリカはニコジャ半島、アメリカはカリフォルニア州ロマリンダ、日本の沖縄の4つのゾーン、

さらにかつては日本の長寿村としてその名を馳せた山梨県は旧棡原村。

これらの世界中に存在するガンにもアルツハイマーにもミトコンドリア病にも罹らないセンテナリアン(百歳越え長寿者)が多く住む地区に共通する長寿食の秘訣を探れば、

いったいヒトが何を摂取すれば長寿で健康でいられるかの確たるエビデンス(証拠)がもたらされるはずだ。

棡原村はかつて秋から春までの半年間もの長いあいだ、朝食に里芋の味噌煮を主食としていたことで有名である。

旧三大長寿村に共通しているのは地産地消でオーガニックなマクロビオティック的な植物性7対動物性1の比率の食事内容であることであり、

新長寿村のブルーゾーンもやはり旧三大長寿村と同じような植物性食が主体であるが、動物性も少しは摂取するというワールブルグの食卓やゲルソン療法に近似の内容であった。

カリフォルニア州ロマリンダに住む心臓外科医はもとから肉食は少なかったのだが、心臓や血管の障害で手術をされる者のほとんどの食事内容が聞き取ると、肉食やジャンクフードに偏重していることを知り、

ますますベジタリアンに近づき、老齢になっても自分が健康なのは、純正な穀類と豊富なナッツ類と果物の摂取にあると広言していた。

歯の構成比に従って食律を組み立てれば、それはすなわち長寿村レシピであり、ワールブルグ・レシピであり、ホモサピエンス・レシピということなのだ。

臼歯と切歯が合わせて28本と犬歯が4本。この歯に刻まれた形と構成比こそがここ1万5000年の人類が食べたものの軌跡であり、穀類文明を築いた人類の生きた痕跡、記録、データ、食べ物の足跡なのだ。

ホモサピエンス5万年のグレートジャーニーとは文字通りこの肉体を通して雨風吹き荒れる外部環境と接し続けた旅であったと同時に、

肉体内部においては歯の上と消化管の表面と全身の60兆個の細胞膜を、食べた物が消化され分解され解毒され消費されリサイクルされ続けた旅でもあったのだ。

糖質を分解するアミラーゼが口腔や膵臓や小腸から分泌され、細胞膜にはグルコーストランスポーターという糖質専門の輸送口が開設されている。

ヒトという種族は糖質によって生かされる存在なのだ。

糖質制限ではなく「糖質選択」という言葉が一般化することを切に希望します。

マスター・エッケンは見ての通り冒頭言で「ヒトの元気は穀類によって養われる」との真言をすでに今から300年前に発してくれておりました。

謹(つつし)んで益軒先生のお言葉を拝聴しようではありませんか。

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2015.01.11 | | コメント(7) | トラックバック(0) | 命曼荼羅

コメント

糖質選択

この言葉奥深いです。

自分は肉が大好きですが多量には摂れません。
海藻類、ネバネバなオクラや納豆、山芋、里芋を摂ると調子がいいです。

あとは根菜類です、焼き調理より煮物があっている気がします。
また、塩分はたくさん摂るようになりました。粗塩の美味しさを知ってからです。
食卓塩はあまり美味しくなく、少ししか食べれません。
市販の菓子類も同じく、黒糖が使われているマイルドな甘さのものが好みです。

これらは歳を重ねてから、311以降に身についた、先生のおっしゃっていた快の感覚に耳を傾けた結果かなと思っています。
お腹にいつも聴くようにいています。
たまに食べるラーメンは今も大好物ですが。笑

内容が以下に隠れているか、糖質選択。
目からウロコです。

2015/01/11 (日) 11:16:30 | URL | 三十路 #- [ 編集 ]

遅まきながらお年始

「証」を見誤る、否、観れない事と、
生命現象のダイナミズムを把握出来ない事は同義なんでしょうね。
医療健康産業は、そんな我等、暗愚に支えられた巨大マーケットと極論出来そうです。
これでもかと全体生命を俯瞰し、考察の下敷きとなるロジックさえも検証対象とする先生の医道人としての純粋な姿勢に深い敬意と共感を覚えます。
今年も多いに学ばせて頂きます。

年初めのご挨拶なんでカタメにいきやした。爆笑

2015/01/11 (日) 14:45:43 | URL | 陣中見舞い #- [ 編集 ]

算数が合わない

>アインコルンはすでに8500万年前
"万"が余分のような気が・・・

>臼歯と切歯が合わせて32本と犬歯が4本
32+4=36 なんだけど・・・
あたしゃ、28本のうち下の両7番が脱落し26本しかない。

2015/01/11 (日) 19:20:41 | URL | ジェミニ #jpeGMFrg [ 編集 ]

皆様、大サンキュー!

三十鈴さま、本年もよろしくお願い申し上げます。

マスター・ジンさま、新年早々から相変わらずのキレ、いつもながら痺れます。

ジェミニさま、いつもありがとうございます。訂正致しました。

また、あとで常連様だけにお伝えしたい、本年の抱負など書き込ませて頂きます。

取りあえず、今から子供っちをお風呂に入れますさかいに(笑)、取り急ぎにて候。

2015/01/11 (日) 19:37:05 | URL | 養生法の探求 #- [ 編集 ]

遅ればせながら・・・

お久しぶりでございます。

そして、

遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。

糖質制限、私は、一応しています。
精製砂糖、精製小麦、精白米を避けてます。
糖質のすべてが悪いわけじゃないですけど、現代の食の大部分、とくに大量生産加工食品が怪しげなのは、本当に悲しいです。
何も知らなくて、何も考えてなかったら、とんでもないものばかり食べてしまうことになってしまいます。。。

できる限りよい材料を入手して、手作りで、生き延びるように生活シフト中です♪

去年は、ケーキ、お菓子作りに明け暮れ、年末はパン作りをはじめ、やっとコツをつかんできたかな、って感じです。

今村さん、今年もどうぞよろしくお願いいたします!
ブログ楽しみにしています。
7125

2015/01/11 (日) 20:05:18 | URL | ひろみ #ngtcWdFE [ 編集 ]

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2015/01/11 (日) 23:22:48 | | # [ 編集 ]

ボンジョルノ!

ってイタリア語やんけ(笑)

スペイン在住のひろみさん、これはこれはお久しぶりです。

昨年は私の養生法論という小麦粉を何度もふるいにかけて、夾雑物を取り除いた年となりました。

これでようやくパンに仕込めるような粉が出来たと言えましょうか。

それで昨年末の「鍼医の夜明け」シリーズからこれまでやりたかった念願のネタに少しづつ着手して、

本年初頭についに「養生訓」に挑戦しております。中学生の時に「健康とは?人体とは?」の大疑団を発して以来、すでに30年余が経過したわけで、

だいぶ発酵も進んできました。世に溢れる「養生訓」もどき、とは一線を画しながら、貝原益軒翁のアヴァンギャルドでラディカルなスピリッツを損なわず、そこに私独自の思想を注入し、オリジナルをビヨンドするような大作を目指します。

予定では半年は同じタイトルで行こうかと画策しておりますが、あくまで予定です。

ということで、本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

あっ、亀さんのブログでも、ひろみさんのお名前を見かけて、なんか嬉しく思っておりました。

2015/01/12 (月) 04:12:13 | URL | 養生法の探求 #- [ 編集 ]

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