羅鍼盤

ミトコンドリアとはじめて出会ったのは、いったいいつだったのか?の記憶はおぼろげで定かではないが、高校の生物の授業において教科書に記載されていたことは多分、確かだろうと想起する。

かつては糸粒体(しりゅうたい)などと直訳されていたようだが、ミト( mito )はギリシャ語で糸を表し、コンドリオン( chondrion )は粒子の意味であり、単数形をミトコンドリオン、複数形をミトコンドリアと呼ぶ。

一般的にはミトコンドリアのイメージは俵型のまるでイモムシかカイコの繭(まゆ)のような形状でイラストが描かれており、また電子顕微鏡などで撮影された写真でもそうしたこれまでのイメージのタワシの断面図のような写真がよく生物学の本などには掲載されている。

しかし実際のミトコンドリアは細胞核の周囲に張り巡らされたクモの巣のようなネットワーク構造で細胞質に存在しており、まるで1000億個の脳ニューロンや100億個の腸ニューロンのニューロンネット状か、はたまた東洋医学の経絡ツボ人形に描かれているようなツボとツボを縦横に結び合わせた経絡図のような「ひとつらなりの糸状構造」を形成している。

なぜ実際のミトコンドリアのリアルな姿がいまだに高校生物の教科書や生理学の専門書に掲載されないのかは実に不思議ではあるが、ミトコンドリアが単体の粒子でいるのではなく、ひとつのネットワークを構成していることには実は深い意味があるのだ。

ミトコンドリアはすでに皆さんもご存知のように、細胞内に取りこまれた糖質や脂質やアミノ酸から酸素と太陽光線を利用して酸化的リン酸化という酵素反応を行い、アデノシン三リン酸(ATP)を合成して、二酸化炭素と水を吐き出すのが主な働きとされる。

このミトコンドリア内におけるATP産生において、最も大事な過程がATP産出の最終ラインである電子伝達系における呼吸酵素反応なのだが、この呼吸酵素複合体(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ)のタンパク分子で出来た呼吸酵素は、

それぞれ細胞核DNAのセントラルドグマが起動することによって合成されたタンパク質のⅠ群とⅡ群からの2ルートから配給される非常に複雑な仕組みとなっており、タンパク質のⅠ群がミトコンドリア内膜からヒートショックプロテインHSP60の膜輸送の介添えでミトコンドリア内部へと運ばれると、

ミトコンドリア内部においてミトコンドリアDNAのチカラでさらに転写や翻訳が行われて最終的にはミトコンドリア内部で13種類の呼吸酵素タンパク質が合成される。そして細胞核DNAにコードされて合成されたタンパク質のⅡ群からは73種類以上の呼吸酵素タンパク質が

やはりヒートショックプロテインHSP60の膜透過のシャペロン機能を介してミトコンドリア膜内へと輸送されるという、細胞核DNAとミトコンドリアDNAが連繋してタンパク質を合成し、ヒートショックプロテインのHSP60の膜輸送やヒートショックプロテインHSP102のフォールディング調節を介して、ようやくミトコンドリア内の電子伝達系における呼吸酵素反応が進行していくという、

とんでもない凝ったシステムがミトコンドリア回路に存在するという事実はまだほとんど一般化していないと言える。ここの今の記述が少し難しく感じる方には、ザックリと理解してもらうために、もう一度、このミトコンドリアの電子伝達系における呼吸酵素反応についてかいつまんで反芻して申しますが、

早い話しが、ミトコンドリアは単独で電子伝達系を動かすことはすでに不可能であり、常に細胞核DNAの指令のもとに細胞核DNAの命ずるがままに電子伝達系を動かしているというキモを、理解できればいいのである。

巷間、ミトコンドリア偏愛者が量産されて、ミトコンドリアさえ復活させればそれで命の万事がすべてうまくいく、というまるでミトコンドリア真理教カルト信者のような物言いがそこかしこからやかましく聞こえるご時世となりましたが、

ミトコンドリアは今から12億年前頃に原始真核生物の体内に共生した際に、活性酸素や放射線や紫外線や異種タンパク毒素などにミトコンドリアDNAが暴露することで、ミトコンドリア内における物質合成やエネルギー産生に問題が生じないように、

たった37の遺伝子のみを残してそっくりと細胞核DNAにミトコンドリア遺伝子のデータを疎開避難させてしまっているのです。この m t DNA の細胞核DNAへの避難措置によって、ミトコンドリアはみずからの運命を変革して細胞核DNAに指令され支配される「変わらなくあるために、変わりつづける」命のための細胞内オルガネラとして細胞内共生をする道を選択したと言える。

ミトコンドリアが優れたATP産生器官であることに異論はないが、だからと言ってこれら細胞核DNAセントラルドグマとの関連性の事実から俯瞰すればミトコンドリアは細胞と一心同体であることは最早、誰も疑う余地がない程に当たり前のことなのだ。

さて、ここまでのクドクドとした論述でいったい私が何を言いたいのか?と申すと、ようはミトコンドリアにおける電子伝達系の不具合の原因には複数のファクター(因子)が介在するであろうということをこれから述べてみたいのだ。

例えば電子伝達系における呼吸酵素複合体を構成する総勢86種類以上のタンパク分子は、もとをたどれば細胞核DNAのセントラルドグマが正常に起動することでヒートショックプロテインによってミトコンドリア内にまで運ばれるものであるから、

もしも細胞核DNAのセントラルドグマを起動する遺伝子に異常があれば、正常なタンパク分子がうまく合成されずに呼吸酵素反応に必須なタンパク分子が配給されずに電子伝達系における呼吸酵素反応は失敗に終わってしまう。

また例えセントラルドグマがうまく作動しても、タンパク分子を合成するラインである小胞体やリボソームのどこかでタンパク分子がフォールディングに失敗して変性タンパク質になって小胞体に滞ると、

この小胞体ストレスによってもミトコンドリアの呼吸酵素反応に必須のタンパク分子が運ぶことが出来ないし、また細胞質にフォールディングに失敗した変性タンパク質や使用済みの酵素タンパク質が変性したものなどが満ちあふれて、これらの細胞質のゴミのクリーニング処理機構であるオートファジーが機能不全を起こしていたりするとそれにより

やはり呼吸酵素反応に必須のタンパク分子の輸送が邪魔されてうまく事が運ばない事態が招来されるであろうし、オートファジーとの関連ではオートファジーの最終処分地である細胞内の消化器官であるリソソームという液胞が

消化分解酵素の変性でモノが詰まってしまって消化できずに脂肪や核酸やグリコーゲンや乳酸が充満してしまってリソソームが機能しない「リソソーム蓄積病」などの場合にも、オートファジー不全と関連してミトコンドリアの電子伝達系における呼吸酵素反応は傷害されると予測できる。

つまりミトコンドリアにおける電子伝達系が傷害されるファクターとしては、細胞核DNAの遺伝子異常と小胞体ストレスとオートファジー不全とリソソーム蓄積病の4つのファクターがパッと思い浮かぶのだ。

そしてこの4つのファクターは結果としてミトコンドリアのATP産生を停滞させ失調させるとしたら、ミトコンドリアの機能不全を起点にカスケード反応によって細胞がガン化するまさに原因となるファクターこそがこの4つの要因とも言えると言いたいのである。

ここもまた難しい言い回しと感じる御仁にはザックリ解説をしておきますが、早い話しが細胞がガン化する要因には複数のファクターが介在しており、そこにはいったいどこがスタートで、どれがカスケード反応の原因かはなまじ知識があっても分かりかねる、という点が分かればよろしいだろう。

チマタのガン解読における、ガンの原因はミトコンドリアの不具合、と決めつけるカルト的な論説は、まことにシンプルでわかりやすいのだが、現実の細胞生理はそれほど単純でシンプルなどでは決して無く、

また乳酸という単なる細胞質におけるATP産生の中間分子をまるでテロリストか悪魔の如く忌み嫌うのも、また細胞生理の何たるか?をまったく理解していない態度だと言いたい。

命のありようは、無駄なモノを生み出すことはないのだ。その証明のように感染症や敗血症はそれはそれで立派なガン予防としての役割があったことが判明した。

筋細胞内の凝りの原因物質である乳酸タンパク質が実は乳酸がグリコーゲンに、タンパク質がアミノ酸に変換されることで、身体にエネルギー源として再利用されていることは、本ブログを始めたもっとも早い段階ですでに解説済みだ。

もちろんガン細胞内の細胞質の乳酸もオートファジーを亢進し駆動し活性化することで、グルコースに糖新生されて解糖系で再利用されていることは言うまでもない。

オートファジー不全で発生したガン細胞は、オートファジー亢進というバックアップによってガン細胞をして正常に作動させるのである。

命の妙がここにも垣間見られる。

ミトコンドリアの総重量は体重の約10%であるので、60キロの体重であれば何とミトコンドリア総重量は6キロとなる。脳や肝臓はわずか1キロ超、皮膚が最大の臓器で3キロ余。これら重量級の臓器をはるかにしのぐ物理量をミトコンドリア総数が有している。

そして1日に産生するATP量は何と50キログラムから100キログラムに及ぶ。この毎日産生されるATPという膨大なエネルギーにわたしたちの命は養われている。

ミトコンドリアは傷ついたミトコンドリアDNAや活性酸素で劣化した単体のミトコンドリオンを融合することで希釈して実害を予防し、もしも不良品のミトコンドリアが生じた場合には選択的オートファジーのミトファジーによってATPを利用しながら不良品ミトコンドリアを分解してしまう。

このようなミトコンドリア間における物質交換のバックアップシステムの仕組みは近年になり「ミトコンドリア連携説( Interaction theory of mitochondria )」という仮説となって提示されてもいる。

ミトコンドリアとは自立した存在であると同時に、ホストである細胞と一心同体の二つの顔を持つ共生オルガネラなのだ。

細胞のガン化は決してミトコンドリアの機能失調にだけ原因があるのではなく、様々なファクターが介在することは肝に銘じたい。

「ワールブルグ効果」という80年前の古いドグマを反芻することから決別し、卒業する元年となった本年でありました。

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2014.12.29 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 命曼荼羅

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