The dawn of Harii 20

今から約100年前にロシアの微生物学者であったイリヤ・イリイチ・メチニコフ(1845〜1916)がイタリアはシチリア島で海洋生物の研究をしていて、顕微鏡下においてバラの刺(トゲ)を棘皮動物のヒトデに刺すと、刺された部位に集まってくる細胞を発見し、この細胞にはトゲで傷ついた部位から侵入してくる異物を食べる機能があることを見つけて、この細胞を食細胞と命名した。

メチニコフはこのマクロファージ(ギリシャ語でマクロは大、ファージは食べるを意味するので、直訳すると大食い細胞)という生体防御機構の発見により1908年にノーベル生理学医学賞を授与された。

時代がくだってカナダ出身の免疫学者ラルフ・スタインマンは1973年に脾臓においてマクロファージとは異なる形状で樹枝状の突起をもつ免疫細胞を発見した。このまるでヒトデの手足のような突起をもつ免疫細胞は樹状細胞( dendritic cell )と呼ばれるようになり、マクロファージも含めて樹枝状の突起をもつ細胞を一括して樹状細部群とすることが1982年に学会で提唱された。

つまりマクロファージという食細胞は樹状細胞の一種なのだ。マクロファージ発見から遅れること半世紀の樹状細胞の抗原提示能力はマクロファージよりもさらに上をいくという。

高等な脊椎動物だけがもつ免疫システムのリンパ球が担うT細胞やB細胞の獲得免疫も、実はこれら自然免疫で抗原提示をおこなう樹状細胞やマクロファージによってどんな細菌やウイルスや、アレルゲンとなるような異種タンパク質が侵入したのかの情報提供という抗原提示がなされなければ、なにもできないのだ。

免疫の最前線において最初に抗原となる細菌やウイルスや異物にアタックする自然免疫がいかに大事な機能かがこのことからもよく理解できる。

地球上の動物界においては、脊椎を持たない昆虫やカブトガニやエビなどの節足動物や、イカやタコや貝類の軟体動物や、ミミズの環形動物や、ウニやヒトデの棘皮動物や、ホヤの原索動物や、より原始的なヒドラの腔腸動物や海綿動物などはみなすべて自然免疫だけで地球環境に適応した種族である。

ヒトにおいては自然免疫から抗原の情報を得てからやおら獲得免疫が起動して、キラーT細胞のクローンが作られたり、形質細胞化したB細胞が抗原にマッチした抗体を産生するのにはおよそ3日から10日ほどの期間が必要となる。

だからこんなまどろっこしい獲得免疫など持たない地球生命種たちは、次から次に侵入してくる細菌やウイルスを片っ端から食べて処理するだけのパワー免疫によって、これまで生き抜いてきたといえるのだ。

確かにB細胞が遺伝子再編成という仕組みを使って1200万種もの抗体グロブリンを作成し、T細胞の細胞膜にある抗原レセプターであるT細胞受容体・TCRの遺伝子再編成システムなどもとても洗練されて高度で驚異的な仕組みであり、感心することしきりであるのだが、

それもこれも樹状細胞やマクロファージの自然免疫からの情報提供という抗原提示があるからこそ可能なのだ。

まずもって体内に侵入してきた異物を捕捉し、いったいその異物がナニモノなのかモグモグと食べてから判定し判断する。この抗原の認識これこそが免疫のエッジでありキモであることは何度でも強調したいし、どれほど強調してもし足りない。

さてヒトの皮膚には皮膚が傷ついたりしてそこから浸入してくるウイルスや細菌や異物に備えてランゲルハンス細胞と呼ばれる樹状細胞が無数待機していることは、まだそれほど一般化していないが事実だ。

このランゲルハンス細胞は樹状細胞の性質をフルに活用して、ふだんは表皮の下層領域における有棘層や基底層にいるのだが、もしも皮下になにか異物が侵入した際には、その樹枝状の腕をまるでヒトデの手がニュ〜と伸びるように伸ばして、わたしたちが垢(あか)と呼ぶ本当の皮膚表面である角層下まで免疫の手を伸ばすのだ。

つまりヒトの皮膚にはヒトデのようなランゲルハンス細胞という樹状細胞が存在し、皮膚という堅牢なバリアを突破して侵入してくる異物をその長く柔軟な「妖怪ろくろ首」の頭と首のような手でつかまえて、これを食べて取りこんで分解し、10個程度のアミノ酸からなる抗原ペプチドにして細胞膜にHLA抗原として異物の情報を提示します。

するとこの抗原の情報は獲得免疫のなかでは統合的な参謀となるヘルパーT細胞へと伝達がなされて、抗原にマッチした抗体を作成するようにB細胞へと指令がいき、また獲得免疫と自然免疫の橋渡しをするNKT細胞(ナチュラルキラーT細胞)もランゲルハンス細胞から抗原情報を受け取ると

キラーT細胞とNK細胞の二大キラー系細胞を賦活でき、こうしたランゲルハンス細胞を起点にした一連の免疫力の高まりにより、皮膚からの侵入者は徹底的に抗体で捕捉され、またキラーT細胞やNK細胞に打ちのめされて、無毒化されてしまうのだ。

皮膚にはこのようなランゲルハンス細胞という強力な樹状細胞が夥しい量で棲息し、免疫の最前線を守っている。

この皮膚へと鍼を打ち、皮下へと鍼を刺入させるのが鍼治療である。表皮も真皮も貫き筋肉層にまで達する程に鍼が刺入されなくとも、ほんの皮下0.2ミリほどに直系0.1ミリの美容鍼で顔の皮膚を刺しただけでも、

ランゲルハンス細胞は旺盛に角層下に入りこんだ金属鍼をその樹枝状にニュ〜と伸ばした手で探知し、とんでもない異物が体内に侵入したことをその細胞膜レセプターTLRで感じとることだろう。

ランゲルハンス細胞はまず鍼という金属の異物が侵入したことをその手を伸ばして触れて、そして細胞膜レセプターTLRの数種類の中から鍼侵入を専門に扱うレセプターがこれを鍼と判断すると、ランゲルハンス細胞の体内からヒートショックプロテインのユビキチンと共に、ランゲルハンス細胞の細胞膜へと抗原ペプチドが輸送されてきて、

ランゲルハンス細胞の細胞膜に「ホストの旦那が鍼治療を受けてます!」の抗原ペプチドが立てられます。するとこの「鍼治療やってます!」抗原を見つけたヘルパーT細胞やNKT細胞やマクロファージは

「おっ、ええことやってくれてるじゃん、おいら達のホストの旦那は!こりゃあ、旦那の未病治の養生努力に報いる為にいっちょ俺ら免疫細胞も活性化して、ガン細胞を見つけたり、ウイルス罹患細胞を貪食したり、古くなった細胞をアポトーシスしたりして、身体中の細胞をリニューアルせにゃあアカンな!よしみんなやるぜ!」

となって、やおらインターフェロンやTNF-α(腫瘍壊死因子)やインターロイキンなどのサイトカインもバンバンと免疫細胞間で水鉄砲の遊びのように飛び交いと、

このように鍼治療に始まるランゲルハンス細胞からの免疫賦活・仮説を今わたしは構想しております。

熟練の鍼灸師などがよく口にすることに「少しくらいツボの位置が間違っていても、ツボの方がむこうで勝手に親切に寄ってきてツボの位置を直してくれる」というこの言葉の真相とは、

つまりはランゲルハンス細胞が鍼を打った少し離れた位置からクラゲの触手のように手を伸ばして、鍼へとその手を到達させる、その有り様を表現しているのでは?と私は考えております。

ということは「ランゲルハンス細胞こそがツボ?!」

そうです。私が温めている仮説とは「ツボ=ランゲルハンス細胞仮説」なのです!

マクロファージの細胞膜レセプターTLRの全容解明はすでに大阪大学の審良静男(あきらしずお)医学博士によって精力的に進められています。

わたしが免疫学の一般書で見知ったマクロファージTLRの知識も審良博士らの知見です。もしもマクロファージTLRの細かい抗原捕捉能力を知りうることが出来なかったら、これほどまでマクロファージに注目することもなく、「ツボ=ランゲルハンス細胞仮説」のアイデアも浮かばなかったでしょう。

ここにおいて審良静男(あきらしずお)医学博士に、もちろん面識はございませんが、最大の感謝を申しあげます。

鍼灸指圧によって、なぜ免疫系が活性化できて、様々な疾病を予防し治療できるのか?の最大の謎は、自然免疫の樹状細胞やマクロファージの細胞膜レセプターの抗原捕捉に注目することで、新たな視点が生まれ、大きな飛躍を遂げることができました。

「ツボ=ランゲルハンス細胞仮説」が東洋医学界に新たな風を吹き込みます。

( ※ ちなみにこれは私のオリジナル仮説ですので、引用はくれぐれも慎重にお願いします。もしも引用したくば、こちら引用元を明記するか、わたしに断りを入れて下さい。盗用、厳重注意! )

細胞膜のみで他者を把握していた原始生命期の30億年のあいだに、原生生物たちはその生体膜に異物を弁別する機能を獲得していったのです。

それこそがマクロファージや樹状細胞の細胞膜レセプターの起源であり、ヒトの60兆個のすべての細胞膜に存在するタンパク質で出来たレセプターの起源なのです。

「生体は結合がなければ、不活性である」とは受容体の概念を確立し、梅毒の治療薬サルバルサンを秦佐八郎と共に開発し、自然免疫で活躍する免疫細胞の好中球、好酸球、好塩基球や、アレルギーにおけるヒスタミン遊離と関係する肥満細胞を発見したドイツの細菌学者パウル・エールリヒ(1854〜1914)の言葉です。

鍼がじかにランゲルハンス細胞に接し、鍼によって分泌されたβエンドルフィンがミトコンドリア内に取りこまれ、灸治療によって発現したヒートショックプロテインがマクロファージのTLR4に受容され、指圧によって分泌された一酸化窒素が血管の細胞膜に「結合するから」こそ生体は活性化するのです。

分子レベルにおいて分子同士の「結合」というエビデンスがあったからこそ、鍼灸指圧はホモサピエンス20万年史の人類の身体を優しく慰撫し、迎え、見守り、看取る、ことができたのです。

樹状細胞の細胞膜レセプターに鍼灸指圧を受容するレセプターが発見されるかどうかはまだわかりませんが、もしかしたら本当に鍼灸指圧レセプターがすでにランゲルハンス細胞には存在するかもしれません。

もしも本当にそれが発見されたのなら、その鍼灸指圧受容体は「ハリーレセプター」略して「 H I R 」なんて命名されたら、ハリー今村としては大変に光栄です。

ヴィクトルなみに嗅覚を研ぎ澄まして臨んだ本シリーズ「鍼医の夜明け」全20講、ここにおいて堂々の気血、もとい帰結です。

洒落たホンダレッドで塗装されたHRVもだいぶ色が剥げてしまって、いささかヤレが目立ち「わびさび」の風情が漂いつつありますが、メイドインジャパンの物作り精神で生み出されたこの車は、まだまだ乗れそうです。

さて次ぎに向かうはデボン紀の海底か、はたまた白亜紀の樹林か?

いやいや、人体や細胞の中にもまだ見果てぬ原野が広がっています。

鍼先に、指先に、灸火の火芯に、治療のエッジに、地球史46億年と、生命史38億年の「気」を込める旅はまだまだ続きます。

本気度98%の本シリーズのご精読、まことにありがとうございました。

スポンサーサイト

2014.12.20 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 鍼灸創世46億年記

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

kouhakudou

Author:kouhakudou
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR