The dawn of Harii 8

現代人は今では消化器からそれに適応する消化液も出ない人工的な化学製剤の薬物でも平気で口にするまで身体感覚が鈍磨しきっているのだが、

アヴェロンの野生児ヴィクトルやカスパー・ハウザー並みの嗅覚や聴覚や視覚や触覚や味覚を保持していたであろうホミニン(ヒト族)700万年史においては、口にしていいものとそうでないものの区別は日常的に正確に弁別されていたはずだ。

ヴィクトルは現代人の我々には無臭と思える小石の臭いを嗅いでも驚喜したというが、同じく初期ホモサピエンスもまた石の香りを嗅いだのかもしれない。

南アフリカ共和国の海岸岩礁ピナクルポイントから発見された今から16万4000年前の人類の遺跡の中からは、今から3万2000年前頃にフランスはショーベ洞窟壁画の絵の具に使用されたオーカー(赤鉄鉱石)の小片が57個も発見された。この小石は摩耗して円形になり、よく見ると掻き傷のようなものも見える。

小石の表面をなにかで削って粉末にしたものを皿のようにした貝の上に落として、少し水気を足して本当に絵の具のようにして使用したのだろうか?そして絵の具はいったいどこに絵を描くために使用されたのか?キャンバスは石か貝か樹皮かヒトの皮膚か、はたまた洞窟の壁か?

オーカーは確かにショーベやラスコーやアルタミラでは壁画の絵の具として使用されたが、いかにせんこのピナクルポイントで使用されていた時代からは13万年も経過した後で、しかもアフリカ南端と西ヨーロッパという地理的な隔たりも相当ある。時間も空間も随分と異なるのに同じような素材が同じように使用されていたとしたら、

まだ記録媒体も文字も発明されていない先史時代にいったいどのようにして情報が伝達されていったのか?の経緯を探ることはまた興味深い事案だが、わたしは鍼灸師であり、生薬にもいささか興味があるので、16万4000年前のオーカーを顔料として使用していたという考古人類学者の意見とは異なる見解を今回は提示したい。

漢方薬は何種類もの生薬を組み合わせて患者の症候群に適応する薬方(やっぽう)を編み出すものだが、その素材となる薬物には今日の常識からすると少し突飛と思えるものも多数存在する。

草根木皮これ生薬、が基本ではあるのだが例えば生薬名が黄土(おうど)と言えば、これは古い竈(かまど)の土を意味し、効能は嘔吐を鎮め、出血を止めて、利尿の効果があるとされる。

世界には土を食べる土食(どしょく)という習慣が見られることが近年になりクローズアップされ、それは土に含まれるミネラルや土壌バクテリアを摂取しようとする生得的な本能から起こった習性であろうとの分析を聞く。

まさに漢方製剤の黄土などは土食トレンドの先端を行っていると見なせようか。さてその他にはイシガメの甲羅の生薬名・亀板(きばん)には補血強壮作用があるとされるし、酸化鉄を含む陶土である生薬名が赤石脂(しゃくせきし)には収斂作用があり、出血を治し、下痢を止める効果があるとされる。

漢方薬には随分と奇妙な食べ物と呼べないものまで多数含まれていることのほんの一端がこれでおわかり頂けたかと思う。

ヴィクトルなみの嗅覚や味覚をもってして万物の気味(きみ)を弁別し、この世に薬にならざるものはなし、の精神であらゆる自然素材を縦横に薬物に応用した中医たちの身体感覚には尊敬を抱かざるを得ない。

生薬名を代赭石(だいしゃせき)と呼ぶこの薬剤の効能は貧血を治し、止血の効能があり、気分がすぐれない時に摂取すると良いとされる。この生薬の実体はというと「天然の赤鉄鉱石」なのだ。

ピナクルポイントで発見された57個の赤鉄鉱石はまるでキャンデーのようになめられたかのように円形に摩耗し、傷が付けられていた。まさか本当に鉄分を補給するために飴玉のように舐めて噛み、貝の口を開ける際に誤って傷つけて出血した指先の傷口を止血するためにツバで練った赤鉄鉱石の粉末が使用されていたとしたら?

そうもしかするとピナクルポイントで発見されたオーカーの小石は漢方薬の代赭石(だいしゃせき)と同じように薬物的な方法で利用されていたのかもしれない。生薬の知識がなければ読み取れない考古物件がまだまだ埋もれている可能性がある。

ヒトがオーカーを手にした始まりは、あくまで鉄分の摂取と止血が目的だった。傷口に塗るために赤鉄鉱石を口に含んで噛み砕いた黄褐色のヨダレが皮膚にしみ込むと、それはまるで入れ墨をしたようにクールに見えた。ヒトの装飾への欲求は根源的なのですぐにオーカーを顔料や染料に応用する習慣が広まっていった。

そんな物語りが果たして本当にあったのか。体内においては鉄元素は酸素を運ぶ赤血球のタンパク質ヘモグロビンの中心元素であり、細胞内で鉄元素を利用して酸化還元反応を展開し、チトクロム系酵素による酵素反応によって細胞内に侵入した異物を処理しているオルガネラは何とミトコンドリアなのだ。酸素を光エネルギーと糖やアミノ酸や脂肪酸を利用してATPに変換するのも無論ミトコンドリアの役目だ。

ミトコンドリア内は鉄元素が充満し、真っ赤だという。脳や肝臓や筋肉にミトコンドリアは多数棲息している。これらの器官の発達には鉄元素の補給が欠かせない。

人体に必須のミネラルである鉄元素が補給できて、マキロンも赤チンも絆創膏も無い時代にもっともホミニンを悩ました切り傷や怪我による出血を治すことができた赤鉄鉱石は、それはそれは人類にとってかけがえのないダイヤモンドに勝る「石ころ」だったのだ。

人類は今から16万4000年前にすでに生薬名・代赭石(だいしゃせき)なる小石を手に入れた。オーリニャック文化の洞窟壁画に見られるクロマニヨン人の手形はエアブラシのように口に含んだ顔料をツバと共に壁に吹き付ける「吹き墨」の手法で描かれたと推定されている。

鉄分サプリの小石は13万年が経過した後に晴れて壁画の絵の具になったのだ。クロマニヨンのミケランジェロのヘモグロビン濃度は正常値に収まり、その体内のミトコンドリアも元気ピンピンであっただろう。

5300年前のアイスマンの入れ墨は鍼治療の出血を止めるための止血の煤(すす)が着色したものとされるが、ヒトの頭髪の黒焼きである生薬名・乱髪霜(らんぱつそう)なども止血の効能があるとされるので大いに利用されたかもしれない。

出血があった際に頭の毛を切って火打ち石で起こした火で焼いて頓服すればいいのだから、これは実に便利だ。

ヴィクトルやカスパーのような身体感覚があったからこそ生薬医療も鍼灸術も発展したのだ。

「ピナクルポイントで使用されたオーカーは顔料ではなく、鉄分補給と止血のための生薬だった」

これまた「ヒト海藻進化論」と同じく、世界初の新説です。

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2014.12.06 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 鍼灸創世46億年記

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