The dawn of Harii 2

鍼の起源を探るにあたりまず注意しておきたいことは、鍼を最初に医療に応用した数万年前の原始的な人類であった我々のご祖先種たちがいったい如何(いか)なる者たちだったのか?を現代に生きる者が想像することは決して簡単な事ではないということである。

例えば私たちは狩猟採集生活から定住と農耕を手に入れた1万2000年前頃から徐々に嗅覚に頼る生活を抜け出したせいで、これまで1万年ほどの文化生活により嗅覚受容体遺伝子の60%がすでに機能していないことがドイツのマックスプランク進化人類学研究所によって明らかにされているのだ。

つまり現代人が嗅覚を含む五感で捉えて感覚している外部環境と、3万5000年前に南フランスのショーベ洞窟壁画を描いたホモサピエンスが感じていた外部世界とは恐らくはまったく別なモノであろうと推定できるのだ。

現代に生きる私たちはいつもついうっかりと自分たちが感じている範囲、つまり自分の世界観ですべての物事を判断しがちである。しかし霊長類の中で4倍ものスピードで嗅覚受容体遺伝子を失いつつある鼻バカな我々と、100%嗅覚が利いていたクロマニヨン人ではまったく世界観が異なるであろうことはまず肝に銘じておきたい。

18世紀末にフランスはアヴェロンの森で12歳くらいのひとりの少年が野山を駆けまわっているのが発見された。後に「アヴェロンの野生児」として人々に記憶された彼こそが原始人とは如何なるものかを如実に語る良きサンプルであった。

彼は捉えられてヴィクトルと命名され1828年に亡くなるまで学者たちにより様々に調査されたが、何と言っても驚異的であったのはその嗅覚能力の高さであった。

ヴィクトルは手にしたものの臭いをすべて嗅ぎ、その臭いを嗅ぐことに至上の喜びを見いだしていると思われ、私たちには無臭と思われる小石の臭いにさえ驚喜した。彼は澄んだ水以外の飲み物は一切受け付けずにそれを至高のワインのように味わった。

また新しく出会う者を受け入れる場合には必ず相手の「手と頬」の臭いを嗅いでからでないと、相手を識別することも受け入れることもなかったという。この事実から類推するに西洋に残る「握手とキス」の風習とはまさに他人を識別する由緒正しき先祖伝来の嗅覚儀式なのかもしれない。

そして彼の嗅覚補助を司るヤコブソン器官が健在である証拠には性的衝動を抑えることが出来ずに、気に入った女性には熱烈に求愛し続けたこともわかっている。

恐らくはヴィクトルと同じような嗅覚の持ち主たちこそがサハラ砂漠の南縁で発見された700万年前の最初の類人猿サヘラントロプス・チャデンシスに始まった人類史を歩んだ原始人たちだったのだ。

哺乳類は通常は1000種類の嗅覚受容体遺伝子を備えており、この大気中に漂う臭い分子を捉える鼻粘膜の細胞膜レセプターがあるからこそ、果実が熟しているか、肉が腐敗していないかどうか、食べられるモノと食べられないモノが判定でき、

シカやクマは火山噴火や山火事をその煙に含まれる硫黄成分を感知することで、先の御嶽山噴火に見るまでもなく噴火前に山頂から下山するなどの凄テクを発揮することで生き延びてきたのである。

もちろんのこと人間もまたほんの少し前までヴィクトル同様の嗅覚をもって進化し生き延びてきたのだ。

今回のこのシリーズを始めるにあたり、私はここのところずっとタイムマシーンに乗ってホモサピエンスやネアンデルタール人やホモエレクトスやホモフロレシエンシスたちが生きた時代へとタイムスリップしておりました。

恐竜が絶滅し哺乳類の時代を迎えて、地球が寒冷化して氷河期に入っていく6550万年前に始まった新生代の後半にあって、260万年前の第4紀から何度も氷期と間氷期を経験しつつ、この猛烈な環境ストレスの中を生き抜いたご先祖様たちの姿を空想のタイムマシーンから俯瞰することで、

とてつもない尊敬の念とでも申しましょうか?ヒトという種が歩んだ厳しくも素晴らしき道のりを改めて思い直すたいへんに良い機会に恵まれました。

この旅の渦中ではこれまで思いもかけない発見もございました。これまで定説では血がつながっていないとされたネアンデルタール人のDNAが何とわたしたちのDNAに1〜4%も含まれていたのです。

わたしたちはホモサピエンスとネアンデルタール人の混血種であったのです。かつてはホモサピエンスに滅ぼされたと思われていたネアンデルタール人も絶滅してしまったのではなく、わたしたちご先祖様と混じり、今ここに私として生き延びているのです。

最後のネアンデルタール人は現在のスペインはジブラルタル海峡を望むゴーラム洞窟で2万4000年前にその生涯を閉じたのですが、5万年から8万年前にホモサピエンスと交わったネアンデルタール人の末裔が今や72億人にまで増えていると言えるのです。

もしかすると体長3メートル体重500キロを越えたとされる史上最大の霊長類ギガントピテクスや、2004年にインドネシアはジャワ島の東620キロに浮かぶフローレス島のリアンブア洞窟から発見されたわずか体長1メートルの通称「ホビット」と呼ばれるホモエレクトスの末裔とされるホモフロレシエンシスや、

ここ最近になって発見されホットな話題を提供している1万1000年前頃まで中国南部に住んでいたとされるレッド・ディア・ケーヴ・ピープルや、まだ茫として全容が判明していない謎のデニソワ人にいたるまで、

わたしたちという存在はこれまでまだ知られていない類人猿種を含めて、多くのホモ族との交雑やウイルス水平遺伝の恩恵でここまで進化し、命をつないできたのかもしれない。

荒ぶる自然界を相手に、マンモスやケブカサイやオオツノジカやトナカイやアイベックスやホラアナライオンを接近戦でその背中に馬乗りにまたがり、肩甲骨のすき間から素早く木の槍で心臓をひと突きして仕留めていたであろうネアンデルタール人の年老いた化石からは、

生前はその身体が打撲や打ち身で傷だらけであり、骨折のためか片手が不自由になり、片目を失明し、歯が2本しか残されていないものなどが見つかっているのです。

K1の格闘家すらも及ばないようなとてつもない生死の境涯を20万年間も生き抜いた彼らホモ・ネアンデルターレンシスのご先祖様の身体能力が、光栄にもわたしたちホモサピエンスの末裔のDNAには宿っているのです。

27種を越えるだろう人類種の先輩たち、このわたしたちご先祖様を支えた医療とはいったい何だったのだろうか?

眠っていた嗅覚受容体遺伝子を揺り起こすような鍼の起源を巡るアドベンチャーは今、始まったばかりです。

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2014.11.29 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 鍼灸創世46億年記

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