ブラックパール 18

欧州ブルガリア地方に住む人々はウシの乳を発酵させたヨーグルトの酸乳を常食するがゆえに、そのヨーグルト内の乳酸菌であるブルガリア菌が口中から腸内へと生きたまま到達して繁殖し、これにより腸内常在菌の菌叢バランスが整って善玉菌が増えて、腐敗菌の悪玉菌が抑制されて、悪玉菌が産生するインドールやスカトールなどの毒素が血中に溶けこむ確率が減殺されることでブルガリア地方のような長寿村が成立したと分析したロシアの生物学者、イリヤ・イリイチ・メチニコフ(1845〜1916)は

「人間の老化は腸内腐敗菌が腸内でつくる毒素による慢性中毒であって、腸内腐敗を防止すれば早老が阻止できる」

との信念で自身もヨーグルトを自家培養して、毎日、健康増進のために常食していたが、1916年に動脈硬化症を伴う尿毒症で71歳でこの世を去った。現在にまで続く「乳酸菌神話」または発酵菌がもたらす健康増進効果の伝説の始まりがこの「メチニコフの不老長寿説」にあることには論を待たないが、残念ながら外来性の動物性食品に由来したブルガリア菌はメチニコフ博士の腸内に棲みつくことはなく、意地悪く言えば、彼の信念は空回りに終わったと見ることも可能なのだが、

今や微生物の摂取がもたらす健康増進効果は「プロバイオティクス」という言葉と共に普通レベルにおいて人口に膾炙し、また近年のマクロファージの細胞膜レセプターのトールライクレセプターTLRの最新知見によれば、このトールライクレセプターTLRは微生物の細胞壁成分に敏感に反応して、それをスイッチとして他の免疫細胞の活性化を誘導するインターロイキンや腫瘍壊死因子やインターフェロンなどのサイトカインが合成分泌されることで自然免疫もガン免疫も獲得免疫もスムースに動き出すことが判明しているのだから、

やはりロシアの「自然免疫学研究の父」と称(たた)えられるメチニコフ博士には偉大なる先見の明があったと瞠目する次第です。

そうなのです。何とマクロファージを最初に生物から発見したそのヒトこそが実はメチニコフ博士であったのです。

1883年イタリアはシシリー島のメッシナに設けられた実験室において、彼はその後の免疫学に画期的な発展をもたらす革命的な発見をします。バラの刺(トゲ)でヒトデを刺すとその刺された場所に集まってくる細胞に気がついたメチニコフは夢中でその細胞をスケッチし、後に食細胞と命名します。これが今で言うマクロファージの発見だったのであり、マクロファージの命名者とはメチニコフ博士であったのです。

メチニコフ博士が当時、地中海の潮の香りに包まれて顕微鏡下で覗(のぞ)いたマクロファージの貴重なスケッチは今でも残存し、その色鮮やかに食細胞を描いたタッチは今見ても新鮮であるそうだが、

メチニコフ博士はこの病原菌を食べる免疫細胞の存在を提唱したことで1908年にノーベル生理学医学賞の受賞の栄誉に浴しました。

晩年はパストゥール研究所に招聘され1904年に副所長に就任しましたが、彼の研究のメインは免疫や毒素や梅毒から、徐々に食細胞から発展した老衰の問題へと移行していった模様です。

一見、空回りしたかに見えたメチニコフ博士の最晩年の取り組みである乳酸菌の積極的な摂取の実践により健康長寿を成し遂げようとする試みが、今や3.11後の恒常的な内部被曝への未病治なる養生法として実践されていることをメチニコフ博士が知れば、さぞや草場の蔭で驚くことでしょう。

幕末、日本の西洋医学の父とまで言われたオランダ出身のフランツ・フォン・シーボルトの日本滞在時に、日本側の鍼医の代表として書簡を交わす程にまでその実力を評価された鍼医、石坂宗哲(いしざかそうてつ)の著書「針灸知要一言」の書中には今風に要約、意訳すれば

「鍼の治効メカニズムとは竹や木のトゲがヒトの皮膚に刺さった際に起こる生体の自然治癒反応と同じ機序で、生体防御反応が促進されることにある」

と解読できる非常に味わい深い論述部分があるのですが、メチニコフ博士がヒトデにバラのトゲを刺して集合する防衛部隊のマクロファージに目を奪われた新鮮な感動を、石坂宗哲もまたこの日本の地で日々の江戸期の病人を診療する中でその鍼を打つ直下の皮膚内の生体の聖なる蠢(うごめ)きとして体感していたのかもしれません。

鍼治療とは皮膚という人体防衛の最前線で免疫を司るマクロファージと由来を同じくする免疫細胞の樹状細胞のランゲルハンス細胞を刺激する医療であり、このランゲルハンス細胞からの抗原提示がスタートになって身体の免疫細胞のすべてが活性化していくのです。

樹状細胞の抗原提示力はマクロファージの抗原提示力のさらに上をいきます。

鍼治療こそが免疫賦活を可能とする唯一無比の世界に冠たる自然な「抗ガン免疫細胞療法」だったのです。

マクロファージ発見から130年ほどが経過した2014年の夏も盛りのこのときも時、

マクもとい牧之原市の茶畑に囲まれた田園地帯に棲む鍼灸師の胸の内は、免疫の真相のベールがニンニクの皮むきのように次々にむけて、ドキドキしっぱなしです!

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2014.08.08 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 免疫強化

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