フロンティア スピリット 9

「いやしくも医の業をもって互いに主君主君に仕ふる身にして、その術の基本とすべき吾人の形態の真形をも知らず、今まで一日一日とこの業を勤め来りしは面目なき次第なり」

山脇東洋が日本初(宝暦4年、1754年)の死体解剖に立ち会った17年後(明和8年、1771年)、江戸北郊の小塚原刑場で行われた女性の死体解剖を、それぞれが持参した同じ西洋の解剖書を参照しながらつぶさに観察した杉田玄白や前野良沢は、

それまで得ていた漢方書の解剖図や経絡図の知識と実際に解剖された人体内部の様子の違いに愕然とし、また持参した西洋の解剖書の記載が正確であることを尊重し、

冒頭の独白をもって中川淳庵も含め8人の仲間たちとその後、ドイツ人クルムスが著した原題「Anatomische Tabellen」、いわゆる彼ら流の読み方では「ターヘル・アナトミア」と呼んだ、後の「解体新書」作成がここにスタートしたのである。

『解体新書』が発刊された後の当時の江戸日本で一般大衆にまでその「腑分け」の正しい知識が普及していくことで、恐らくは漢方医学のある部分は信用を失っていったのだろう。

実は山脇東洋に続く古方派にあっても解剖には賛否両論あり、かの吉益東洞ですら解剖を良しとはしなかったのだ。古方派と言ってもそれは、一枚板ではなく、またそれぞれが独自の哲学を持ち、矜持を保持していた。

解剖全盛の機運に反対する意見では漢方医・望月三英(1697〜1769)の次の言葉が出色である。

「形象も死にては気がなき故、・・、生きて居る人の臓腑にあらざれば医者の用には立たぬなり」

生体機能の賦活をこそ重視した漢方医学の面目躍如、これもまた東洋医のアッパレな見解である。

日本の学校における歴史教育で習う江戸期の医療トピックと言えば、まず誰もがパッと思い浮かぶのが以上の「スギタゲンパク、カイタイシンショ」というくだりであり、

それより以前に実際に起こった山脇東洋の日本医道史における歴史的快挙、実際の解剖見聞記『臓志』の発刊が、現在の教育現場で取り上げられることは恐らくは100%無いであろうし、

杉田玄白たちが西洋の解剖書を訳したよりも約一世紀も前に、本木良意(もときりょうい)なる通詞(つうし)がオランダ語で書かれたドイツ人レムリンの解剖書を独学で全訳していた事実も、また公教育の場で触れられることはないだろうし、

1658年頃に、鳩野宗巴(はとのそうは)という日本人が日本に停泊していた蘭船に乗り込んで、オランダ現地に潜入し、当地にて医術を修めること5年にして日本に帰国し、長崎で名を挙げ、熊本藩に招かれ、後に大阪に住まい、1697年に57歳でその探求心たくましい人生を終えた事もまた教室で子供達に教えられることもなく、

いやいや、そもそも日本の江戸期の医療の何たるか?明治維新前の日本医道史の全容の何たるか?が学校教育の現場で語られる機会がまったく無いという非常に御粗末な現実がまずあって、

だからこそ近所のおっさんがナニゲにわたしとの会話において「なんか鍼灸って胡散臭いもんね」とノタマウまで現代日本人の脳内医療コンテンツは荒廃しているというわけなのです。

「なにも知らない」からこそ偏見が生まれ差別が生じる。

医学と言えばシュバイツアーか野口英世か森鴎外?

言っちゃあ悪いけど、このへんの方々は、はっきりいって全然たいしたことないでしょ。

よっぽど、北里柴三郎、志賀潔、高峰譲吉あたりの方が素晴らしい業績を残してる。

尊敬する医学者は?って子供に聞くと今でも野口英世じゃあね、アンタ、あまりにひでえわな。

ネット時代なんだから、せめて北里柴三郎くらいにバージョンアップしてなけりゃあアキマヘン。

あなたの尊敬する日本の医家は?の質問に

「やまわきとーよー!」

と、大声で即答する子供、大人が全日本人口の99.9%になる時代を引き寄せるには、

はい、こういった情報発信を継続して実施していくしかありませんね。

DNAセントラルドグマは自律的に天人合一な営みを繰り返し、毎秒100京個ものタンパク分子を産生してくれている。

このヒト細胞60兆個の基本機能を知らずして、医業を勤め来りしは面目なき次第とちゃうんかい?

今や分子生物学を駆使すれば細胞内生理が詳細にわかり、直径6マイクロメートルの微小な細胞核内に仕舞われた2メートルのDNAの0.5%部分の遺伝子の機能すら判明しているのです。

その細胞内の真形を知って主君領民に仕えることこそが医業の勤めなのです。

しかし、鳩野宗巴(はとのそうは)の冒険活劇は映画にできそうです。

題名はまさに「フロンティア・スピリット」

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2014.04.06 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 命曼荼羅

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