フロンティア スピリット 7

「理論は時に応じて逆転するが、事実を論拠にすれば逆転することはない。理論が先行し事実を後にすれば、どんな智者でも場合によりて失敗する。しかし、実験を重ね、それを土台に理論を組み立てれば、凡庸な者であっても間違うことはない」                              『臓志』山脇東洋

江戸中期の鍼医、漢方医であった山脇東洋(やまわきとうよう)はわが国で最初に腑分け(死体解剖)を行った先駆者であり、師匠の後藤艮山(ごとうこんざん)に解剖をしたい旨を申し立てたが師匠は「カワウソではどうか」と応え、カワウソを解剖してみたが、どうにもヒトとは違い、特に小腸と大腸の区別を確認したく、ついに、宝暦4年(1754年)の2月4日にその機会をつかむ。

しかし、それは首のない38歳の男の死体であり、刑場のそばで大急ぎで、内臓をさばくのを見て、骨の数を数えるという不備なものであった。それでも、東洋はその所見から得た実際のヒトの体内の様子をまとめ5年後に『臓志』という本にまとめ出版する。

その書中の言葉が冒頭の言である。永田徳本を祖とし名古屋玄医をもとに華開いた日本医道の一派は古方派(こほうは)と呼ばれる医家集団であり、それまでの田代三喜(たしろさんき)、曲直瀬道三(まなせどうざん)の系譜の理論重視の派閥である後世派(ごせいは)に対抗するアヴァンギャルドな動きが江戸中期の日本医道史に垣間見える。

後藤艮山の「一気留滞説」も吉益東洞の「万病一毒説」も古方派に属すが、艮山の弟子である山脇東洋が渾身のヒトの腑分けに踏み切ったことは、実証派、実践派、科学派である古方派の面目躍如と言えよう。

中医学の解剖図ははなはだ単純にして、ある意味、幼稚ですらある。それは解剖よりも機能を重視した生命観に由来するのであり、粗末な解剖図をもって中医学が程度の低い医学であるとは無論言えるものではない。

むしろ西洋に先行する11世紀には正確な解剖図も罪人の生体解剖をもって作成されていたが、その後、どういうわけか中医学においては解剖学は進展を見ず、後代になるとまた少しいい加減な解剖図が復活し、その小腸と大腸が逆転したような子供だましのような図譜でその後も事足りてしまったのだ。

山脇東洋の解剖への執念は解剖へ反発する日本医学界のプレッシャーにもめげずに、生涯2度目の解剖を成したことからも伺えよう。山脇家にはイタリアはパドア大学教授、ドイツ生まれのヴェスリング(1598〜1649)の手になる解剖書が所蔵されていたという。蛮書と漢方書の違いを確かめたいという切なる願いが、和方医学に新たな局面を生んだのだ。

時はくだりて2014年の4月3日。今日はこのへんの地区は月遅れで雛祭りを祝う今日この頃。

こんにちは曲がりなりにも東洋が生きた時代とは比べものにならないほどに医学の知識も蓄積され、正確な解剖図のみならず、平均直径0.01ミリのヒト細胞内の6マイクロメートルの直径の細胞核に仕舞われた2メートルのDNAのセントラルドグマな機能により、

生命現象の主役であり代謝の立役者であるタンパク質が毎秒数万個も「DNA→mRNA→リボソームでタンパク質合成」のプロセスで産生され、ヒト細胞全体では毎秒100京個のタンパク分子の産生にはヒートショックプロテインというシャペロン分子の介添えが必須であり、

このヒートショックプロテインもまたセントラルドグマにより生み出され、このようなオートイポイエーシス(自己参照型自己創出システム)によりヒト生命体は60兆個の細胞群の動的恒常性を維持していることまで判明している。

であるのなら、当然のこと、それらの事実を論拠にした東洋医学や気・経絡説を創出していくことこそが今の時代に生きる鍼灸師の使命と私は自覚しており、それゆえに今までもこれからも、分子レベルから捉えた東洋医学的な養生法の探求が成されていくのであります。

後世派と古方派を尊重しつつ、アヴァンギャルド派を興す。これこそが私の役割でありましょう。

山脇東洋のフロンティアスピリットを見習い、前を向いてハリィ〜今村はギュイーンと突き進みます!

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2014.04.03 | | コメント(5) | トラックバック(0) | 命曼荼羅

コメント

思考も

常に柔軟であらねばならないですね。前人未到の新しい領域ですね。
アヴァンギャルド派か、500年ぐらい後には古典になっているん
でしょうけどね。(笑)
スタートレック6のラストでカーク船長が「夜明けへ向かって直進」
と言っていたのを思い出しました。今年は畑で何か新しいものを
見つける事ができるかもしれないなぁ〜、などとワクワクしながら
育苗中です。そちらはそろそろ苗が出回る頃でしょうか?

2014/04/03 (木) 14:10:59 | URL | 桑畑五十郎 #- [ 編集 ]

あたらしい課題が出現

桑さんの家具、イイ感じですね。

木のぬくもり、あたたかさ、作り手の樹木への愛情が感じられます。

な〜る、トトロの世界観ですかね。

しかし、冬はまさに真っ白な銀世界なんですね。ひよわな温暖地帯に住むアッシには応えそうです(笑)

山脇東洋の言葉は最近になって知ったのですが、まったく実に素晴らしい言葉で、こういう理智を秘めた医療家集団が連綿と江戸期に醸成した和方医学の熟成発酵がまずあったからこそ、蘭学が入りこんだ際にそれを吸収できたのですし、なにも蘭方医学のすべてをオッケーとしてひれ伏したわけではなく、和方医学に足りない部分である解剖学や外科学を選択的に摂取したに過ぎないのですが、こういった江戸期の医療の流れはまったくと言っていいほどにその全容は人口に膾炙しておりません。

ですから、ザックリとでも江戸期の医療とは何だったのか?ということがわかるような論説をいつかビシッとカタチにしておきたいと、新たな課題が浮上してきました。

500年後の人類は60兆個の全細胞がガン化して、極限環境微生物であるアーキア(古最近)の一種、ヒトの致死量の500倍のガンマ線でも平気の平左で生き延びるデイノコッカス・ラディオデュランスなみの生命体に変貌しているかもしれませんね。

もっともそうなればすでにヒトではないので、医療とか何かを施しようがないかもです(笑)

ヒトがこうしてヒトでいられるということは、地球生命史38億年のお陰なのであり、あるいは60兆個の細胞が非常に柔らかい代謝で自律的にホメオダイナミクスを保持してくれているお陰なのですが、そういう自然に与えられた命に対する感謝がまったくないヒトたちがなぜ、これほど増えたのか?

これぞまさに養生文化の衰退現象かと認識するにいたり、だからこそ奮闘努力の甲斐もある、って寅さんだよ(笑)

2014/04/04 (金) 05:44:51 | URL | 養生法の探求 #- [ 編集 ]

ちっと草が

畑もどきの周囲の草が物凄い勢いで繁茂しはじめておりまして、かなりヤバイっす(笑)

ボチボチ、苗とかタネとかそんな世界にも目を向けねば。

やっぱ俺って向いてない?(笑)

イヤイヤやりまっせ!

2014/04/04 (金) 05:48:49 | URL | 養生法の探求 #- [ 編集 ]

養生訓

ええと、アッシが所蔵しているのは3バージョンありまして、いっち読みやすいのが

①徳間書店版で、医師である杉靖三郎氏が解説するバージョンで、これは養生訓の全文は記載されていませんけれど、杉氏がビビッと来たくだりを取り上げて、それに現代的な解説を載せるという趣向が非常に宜しいです。

あとは②講談社学術文庫、伊藤友信訳は全現代語訳が記載されておりまして、全文を通読するには適しております。

最後に③岩波文庫、石川講訳は、貝原益軒が著した「和俗童子訓」も挿入されており、安価でコンパクトなのがよろしいかと。

養生訓に関してはこんな感じです。

杉バージョンをチョロッと再読したら、ウーン、やっぱ深いじゃん!とまた目から鱗でやんした。

本日の記事更新はこちら3度のコメにて代行です。

ちっとひと晩で1兆個の細胞リモデリングを促進するために、グッスリと眠ったので(笑)

2014/04/04 (金) 06:11:52 | URL | 養生法の探求 #- [ 編集 ]

なかなか

苦労して写真を撮ったんですよ。(笑)あの机は新1年生用の
学習机だったんだけど、4月に間に合わなかったのでキャンセル
になって今もうちで活躍中です。
こっちは家庭菜園が盛んで、5月に入るとホームセンターや園芸店、
普通のスーパーでも苗の大売り出しが始まるんですけどそちらでは
そうでもないのかな。播種後2週間かかって、やっとシシトウが発芽。
本葉が出るのに10日くらいかかるでしょうか。観察していると
シシトウの時間のサイクルに入っていけそうです。(笑)

養生訓情報ありがとうございます。早速。

さて、苗をハウスに運んで、卵集めるとします。

2014/04/04 (金) 07:15:48 | URL | 桑畑五十郎 #- [ 編集 ]

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