第八章 楽園(かつて感じた記憶)

ミトコンドリアの元であるαプロテオ細菌という酸素と光エネルギーから莫大なATPを産生する好気性細菌が嫌気性細菌という無酸素で低温で少量のATPを生み出すタイプのバクテリアに共生を開始したのが今から20億年前とされる。かいつまむとミトコンドリアが嫌気性細菌と共生したのが20億年前。このミトコンドリア内臓型バクテリアは一朝一夕に成立したのではなく、その後12億年間ほどの試験期間を経て、ようやく8億年前に目出度くゴールインしたという説がある。つまり完全に共生するまでに10億年余の歳月を要したというのである。それはともかく研究者のあいだではこんな事が定説として語られる。植物と動物の分岐点が約10億年前、10億から9億年前にDNAの多様化、つまり大量の遺伝子機能アクセサリーソフトがDNA内にインストール完了、9億年前にはすべての動物と共通する遺伝子をもつ海綿動物が分岐、5億4000万年前に生命が一斉に多様化する「カンブリア爆発」が発生。

ミトコンドリアは共生と共に自身のDNAの機能のほとんどを宿主・ホストである嫌気性細菌に明け渡す。つまり植物と動物の分岐点ならびにDNAメモリーが増加する9億から10億年前頃という時期がミトコンドリアが自身のDNAをホストに渡した時期と符合するのである。このミトコンドリアの共生と10億年前のDNAの多様化を関連付けて言及している記事にはまだ巡り会っていないので、もしかしたら私のオリジナルかもしれないが(笑)まずは、5億4000万年前に始まる生命史の一大イベント「カンブリア爆発」のおよそ4億6000万年前の10億年前頃に生命体内部ではすでに「遺伝子爆発」という現象が先行していた事を記憶に留めて話しを進めたい。

10億年前にミトコンドリアのDNA機能がホストに移行すると、ホストのDNAはバージョンアップし、新たな多くの機能が起動し始める。それらの付加された機能とはαプロテオ細菌つまり好気性細菌のもつ機能であり、例えば好気性細菌が使う酵素タンパク質を作る指令を出す遺伝子をはじめあらゆる好気性細菌の働きを指令する機能がホストのDNAに内臓された事を意味するのである。嫌気性細菌の機能に好気性細菌のもつ機能がプラスされる。これこそが後のカンブリア爆発の準備となるDNA爆発という見えざる一大イベントであったと私は推定する。生命史を動かす要因は形態だけを追っていても見えない真相が多い。

DNAに関してはまだ見える部分であるので、研究者が確たる自説を展開できるが、さらに一歩進めて見ると、例えば地磁気の具合はどうだったのか?地球に降り注ぐ太陽光線や宇宙線の量や質に何か変化はなかったのか?重力や引力などの変調はなかったか?放射線の量は減衰していたのか、増加していたのか?海水中のミネラルの組成に変化はなかったのか?酸素濃度は?巨大な隕石が落ちなかったか?海底火山が爆発したりしなかったか?などなど、見える見えざる要因は次々に挙がってくる。海水中でなぜ生物がまず多様化していったのか?これもまた大きな疑問である。

しかし、まずは、10億年前くらいに話しを戻そうか。10億年前にDNAは一段パワーアップした。そしてその後に生物は多細胞化して海綿動物門(カイメン)、有櫛動物門(クシクラゲ)、刺胞動物門(イソギンチャク)の3門が海中で繁栄するのである。化石の発掘は生命史の確たる証拠である。5億4000万年前のカンブリア爆発にさかのぼること3000万年間の5億7000万年前から5億4000万年前までのあいだに栄えた生物群がオーストラリアのエディアカラ丘陵で1947年に発見された。後に言うエディアカラ生物群である。これら動物群はすべて上記の3門に属するような軟体動物であった。ヒラヒラとした水木しげる翁の描く愛らしい妖怪イッタンモメンの如き薄くて長〜い絨毯かカーペットのような生き物、クッキーやホットケーキを連想する平面的な生物、パスタを並べて膨らませたようなエアマット状のボッテリとしたナリのディッキンソニア、饅頭からニョッキリと首を出してその口先にある口吻で堆積物をひっかいたキンベレラ、イソギンチャクに似るが体内は空洞であったショートパスタのコンキリエ・リガーテ、貝殻パスタにそっくりのエルニエッタ、団扇とおぼしき形状は1メートルにも及ぶ海底に身体を固定し、その扇状の部分で海水中の養分をこしとっていたカルニオディスクス、およそ外敵とは無縁のこれら軟体動物の楽園はエデンの園にひっかけて「エディアカラの園」と呼ばれる。カンブリア爆発に先行する先カンブリア時代は実にマットで大らかで柔らかいユルユルグニャグニャ生物時代でありました。

ゆるい動物だけのユルユル時代。いや実に良いじゃないですか。サンゴ礁のようなものだけで構成された海中。まるでお花畑のような光景が広がっていたのでしょう。軟体動物はつまりはその柔らかい形状の表皮で外部環境を知覚していたのである。カルニオディスクスは表皮から直接養分を摂取するタイプの生き物であろう。昆布やワカメの祖先と見なして良いのだろうか。いや動物門であるから、昆布の直接の祖先ではないが、動物であっても表皮を介して栄養を摂取する手段を持っていた時代があると言える。この3000万年間のエディアカラ動物時代。この時期に「皮膚・細胞膜情報系」が一段と鍛えられたと見ても面白い。植物とも動物ともつかない分類不能の生物も多数いたエディアカラの園。私たちの皮膚はエディアカラ生物時代の記憶を留めているに違いないのである。

この時代は現代の熱帯の海のように暖かい海であったようだ。温水中ではやはりリラックスして生物もグンニャリびよよよ〜ん状態になるのだろう。人間も同じである。温灸で皮膚を温めてあげると、もうスグに眠くなってまどろんでしまうし、治療した日の夕方は早く眠くなってかなわないとは多くの患者さんが口にする言葉である。皮膚は温められると緊張が解けてそれこそビヨ〜ンと伸びる。まるでスルメを焼くとギュ〜ンと動くように皮膚もまた動くのだろうか。その瞬間に皮膚はエディアカラ生物時代の軟体動物の記憶を呼び覚ましているのかもしれない。ヒートショックプロテインはタンパク質の修復を行う。伸びたり縮んだりしたタンパク質はヒートショックプロテインに正しく整形されて元どおりに戻される。温められて伸ばされてヒートショックプロテインがまた修復する。温灸の効能のひとつはこのタンパク質の修復過程を促進することにあるのだ。

エディアカラの園はやがて終わりを告げ、エッジの効いたソリッドな時代が到来する。それを鑑みるにつけ、やはり、エディアカラ時代もまた良き時代であったと回想するのである。皮膚を優しくいたわり、慰撫し、温める。お風呂に浸かったあの快感、温灸を当てた得も言われぬ恍惚感、エディアカラエクスタシーよ永遠に。

スポンサーサイト

2013.05.03 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 鍼灸創世46億年記

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | ホーム |  »

プロフィール

kouhakudou

Author:kouhakudou
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR