リアルの味

平成4年の5月に私は今の治療院を開業した。

その前の1年間ほどは鍼灸の専門学校に通いながら、

按摩マッサージ指圧の出張治療を夜間に行っていた。

だから治療師としての臨床歴は足かけ26年ほどになる。

だけど正確に開業してからでは、

もうじき25周年を迎える。

なんとなく25周年というと節目のように感じる。

そんな思いからか、ここのところ、

私の脳内に滞積沈殿したアーカイブを棚卸ししたい気分なのだ。

それで、本ブログ記事の更新スピードが増している。

本ブログ記事の内容もかなりコアな方向へと向かっている。

ご興味のない方はすっ飛ばしてスルーして頂きたい。



さて、開業後に悩まされた事が二つあった。

そのひとつが治療中に身体が熱を持つことだった。

患者を治療していると、決まって身体が変容してくるのだ。

治療に入り、集中して佳境に至ると、身体の前面の胸の中央の

ダンチュウというツボの付近に玉の汗が出てくる。

そしてその汗が集まり液体になりヘソにまでしたたり落ちる、

ということがよく続いた。

汗だけでなく、涙や鼻水まで出てくることもあった。

いったい、こりゃあ、何事だ?

いつも不思議な感情を抱いたものだ。

しかし、その様な治療中の変容状態は、

それほど苦痛でもイヤでもなく、

むしろそうした変容状態を経験した時は、

自分も気持ちが良くなるし、治療の結果も

良いような気がしたものだ。

こんな治療中に身体が熱くなる変容状態も、

そのうち起こらなくなった。



二つ目の悩みは、突発的な痛みだ。

何をしたわけでもないのに、突然に腰が痛くなる。

あるいは背中の一部分や、肩や足が。

なぜなにをしたわけでもない痛みが

突発的に私の身体に出現するのか?

そういぶかしげに思っていると、必ず同じ部位に

痛みや症状を抱えた患者がその後、来院することに

気づいた。

そうか! この突発的な痛みは、

その同じ部位に痛みや症状がある患者が来るぞ、

というサインだったのだ!

そんな身体に移行してから、ある時、患者が何も

どこが痛いと言わないのに、自然に患者の痛いツボに

手が届く時が、何度か、あった。

その患者は何も言わないのに、勝手に一番やって欲しいツボに

手が届く私の治療に、よく心底ビックリ驚嘆したものだ。

しかし、そんなサインもやがて感じなくなった。



開業後すぐの頃に私を悩ませていた二つの出来事。

そのひとつは治療中の身体発火現象。

ふたつめが患者の主訴のトランスパーソナル(以心伝心)現象。

この二つの出来事は治療師を続けるうちに、

数年後には、やがて消えていった。

恐らくはこの二つの出来事は治療師としての登竜門、

いわゆるイニシエーション(通過儀礼)だったのだ、

と今振り返る次第だ。



話が突然に変わるが、

とかく治療師などというヤカラは、

自分を大きく見せたがるものだ。

パチンコが好きな者がフィーバーを出して勝った時の

事だけを得意げに語るように、

カリスマ治療師と呼ばれるヤカラは、

自分が治せなかった患者のことを正直に告白するケースは

ほとんどない。

万病を治す、というキャッチフレーズほど馬鹿馬鹿しいものはないのだ。

ゲノムの変異に起因する遺伝病、パーキンソン症候群や

筋萎縮性側索硬化症、ミトコンドリア病、

脳中枢の変異を原因とする神経や筋肉の麻痺、

末期ガン、脳血管障害の後遺症の麻痺など、など。

これだけではないが、どんな治療も歯が立たない難病は

ごまんとある。

そんな西洋医学でも東洋医学でも治せない難病を前にして、

それでも、万病を治す、と豪語するヤカラは、

ハッキリ言ってただの馬鹿だ。



25年も治療師をやっていると、

治せるもの、と、治せないもの、がはっきりと峻別できてくる。

治せるもの、は治せる。

しかし、治せないものは、なんとしても治せないのだ。

治療師として長年やっていれば、いつかすべての疾患症状を

治せる奇跡の腕、奇跡の手、奇跡の指が手に入る?

そんな子供じみた希望、幻想がこれでもかと打ち砕かれることで、

命とは何なのか、の私の哲学が作られてきた。



「命とは摩訶不思議なカオスでコスモスでフラジャイルな存在」



このひとことは、治療師となり二つのイニシエーションを通過し、

身体が変容し、奇跡ではなく挫折を繰り返すことで生まれた言葉だ。



科学でわかってきたものの恩恵は計り知れない。

でも、科学では命の何たるか、については、

「本当のところはいつもわからない」のだ。



幻想はいつもリアルが打ち砕いてくれる。

リアルは決して甘くはない。

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2017.03.24 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 養生クリエイター

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