身体論の解体と再構築 2

エリシア・クロロティカ。

この映画ホビットに登場するエルフのような名は

北米の西海岸の温かい海に棲む「植中類」と呼ばれる

特殊な海生生物のウミウシの名前だ。

エリシア・クロロティカがなぜ特殊かといえば、

かいつまんでいえば、動物としての生を受けながら、

後半生は植物として生きるという部分にある。

エリシアは幼生の折にヴァウチェリア・リトレアという

藻類の糸状体を好んで食べる。

そしてその藻類の葉緑体だけを消化せずに生かしたまま

消化管内に取りこみ、やがて消化管から皮膚表層にまで

からだ全体を葉緑体で覆い尽くす。

これによりエリシアは日光から光合成を行える植物としての

性質を獲得し、動物としての口が閉じられることにより、

その後は完全に植物的な動物として一生を送る。

細かいことを言えば、動物の体内で葉緑体が働くには、

動物のゲノムだけでは不可能なのだが、

どうやら藻類のなかで葉緑体を働かせていた遺伝子が、

水平伝播によりエリシアのゲノムにiPS細胞と同じ機序で

ウイルスによって転写されたようだ。

つまりエリシアが動物で生まれ植物で生きるための

天然の遺伝子操作をウイルスが仲介したのだ。

わたしたちヒトはご存知のように動物だ。

幾らホウレン草をナマでたくさん食べても、

ポパイのように上腕二頭筋を膨らませることはできても、

ホウレン草の葉緑体だけを消化せずに取りこんで

皮膚表層にまで葉緑体を覆い光合成で生きていける機能は

残念ながらいまだ獲得できていない。

しかし、ヒトは葉緑体を獲得できなかったが、

すでにあるモノをたくさん、いや膨大な数すでに獲得している。

それはミトコンドリアと呼ばれる細胞内オルガネラで、

ヒトの細胞のなかのミトコンドリアの総数は

1京8000兆個もの途方もない数にのぼる。

このミトコンドリアはかつては酸素と光エネルギーを利用して

光合成をしていたバクテリアの末裔だ。

だから今でも酸素と太陽光線を利用してヒトの細胞活動に

必須のATPというエネルギーを生みだしている。

このミトコンドリアのATP産生には酸素と太陽光線だけでなく、

糖分もアミノ酸も脂質もビタミンもミネラルも必須の素材だ。

この必須栄養素と酸素と太陽光線を素材に、

ミトコンドリア内の酸化還元反応の酵素の中心元素の鉄を

電子の仲介装置に活用して、

自重の1.4倍もの膨大なATPを日々生みだしている。

わたしたちヒトはエリシアほど植物的ではないが、

エリシアに匹敵する植物的なミトコンドリアの生化学反応の

恩恵で生かされているのだ。

今から5億4000万年前に私たちの祖先になる原始魚類をはじめ、

すべての現存する地球上の生物門が一斉に爆発するように

誕生した。これをカンブリア爆発と呼ぶ。

このカンブリア爆発の前夜、3000万年間のあいだ、

柔らかな軟体性の身体を持った植物とも動物とも言えない

不思議な生き物が生を謳歌していたことが

化石からわかっている。

この軟体性の不思議な生き物たちはエディアカラ生物群と呼ぶ。

エリシアよ。もしかして、あなたはエディアカラ生物群の

生き残りなのか。

その外敵がいないがゆえに外装に防御機構をもつ必要がなかった

ことでユルユルのグニャグニャの身体で凝りなど永遠に知らなかった

エデンの園ならぬエディアカラの園において、

今後、地球の激変に備えた天然の遺伝子工学のトライアル&エラーが

急ピッチで、いやゆっくりと温暖な海で進められていたのか。

その時、レトロウイルスたちが植物の葉緑素を動物の

体内に転写する実験をし、その成功者がエリシアの

祖先になったのだろうか?

植物も動物も38億年前の始原バクテリアを祖先に持つ。

エディアカラの園の遺伝子工学が、

カンブリア爆発における植物と動物のレールの轍(わだち)を区別したのか。

遺伝学者の大野乾の仮説によればカンブリア爆発に先立ち、

生物のゲノムは遺伝子重複を起こし二倍になったという。

その遺伝子重複こそエディアカラの園の天然の遺伝子工学の

産物だったのか。

いずれにしろ、わたしたちの体内には、

いまも12億年前に共生したバクテリアの末裔である

ミトコンドリアがエリシアのからだの葉緑体の如く働き、

わたしたちに生きる力を与えてくれている。

ミトコンドリアと原始真核生物との共生をアレンジしたのも、

ウイルスだったのか?

わたしたちの身体は60兆個の細胞と

1京8000兆個のミトコンドリアと

数百兆個の常在菌が調和している。

まさに命はカオスにしてコスモス、

神秘のカタマリだ。

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2017.02.12 | | コメント(0) | トラックバック(0) | 養生クリエイター

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