乳酸は命の恩人

ヒトの身体のなかでは常に60兆個の細胞が食べ物の炭水化物(糖質)から

消化吸収し摂取したグルコース(糖)を利用してエネルギー産生をしている。

この細胞がグルコースを分解してエネルギーを得る方法を解糖系という。



解糖系における反応経路は複雑で10段階を経てグルコースは

ピルビン酸という分子に変換される。

ピルビン酸はその後、細胞質内の反応から一転して今度は

細胞核の周囲にひとつながりのネットワーク構造を築いているミトコンドリア内へ

と運ばれる。ピルビン酸がミトコンドリアの外膜の小さな穴を通過して、

ミトコンドリア内に運ばれると、まずピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体という酵素に

よって分解されて、アセチルCoAに変換される。

ここからクエン酸回路が起動し、ミトコンドリアでの反応が進行していく。



ミトコンドリアへと運ばれるピルビン酸は常に一定量に決まっている。

それゆえにピルビン酸に変換されても、すぐにはミトコンドリアに運ばれずに、

細胞質内で立ち往生してしまうピルビン酸が発生する。

この立ち往生の行列待ちピルビン酸はその後、

乳酸という分子になって細胞質にストックされる。




このストック乳酸がこれまでは筋肉痛の発痛分子と誤解され、

凝りの原因物質と誤解され、疲労物質と誤解され、

癌の原因分子と誤解され、ここ100年ほどのあいだずっと

ゴミカス同然の不当な扱い、差別を受けてきたことは、これまで述べた通りだ。



乳酸は通常生理においてはこのように普通にすべての細胞で発生しているが、

例えば原始人類が大型動物を狩るために、まるで短距離走を全力で走るように、

槍を持ってケブカサイやホラアナグマやマンモスに立ち向かっていく時などに、

全身の筋肉中の速筋という筋繊維細胞で筋グリコーゲンをグルコースに変換して、

グルコースを大量動員して解糖系を反応させた時に、速筋中の筋細胞内に、

大量に乳酸が発生する仕組みだ。



ようは瞬発力、火事場のクソ力、ケンシロウが敵を前に見得を切って

全身の筋肉を隆起させて革ジャンを破りつつ、シンの指で開けられた

胸の北斗七星の七つの傷を見せつけるあの瞬間(笑)

に、乳酸が大量に筋肉中に産生されるのだ。


このケンシロウ革ジャン破りで生じた筋肉中の乳酸は、

その後、乳酸トランスポーターという筋細胞の細胞膜に備わった

タンパク質分子装置の力で、速筋から運び出されると、

血液の流れにのって心筋や遅筋の細胞膜にある取りこみ役の

乳酸トランスポーターにより心筋と遅筋の筋細胞内に取りこまれ、

心筋と遅筋の筋細胞ミトコンドリアの栄養源になり、

エネルギー産生に寄与することがわかっている。


ケンシロウは革ジャンを破ってまずは乳酸を大量にストックして、

それからこの乳酸を心筋と遅筋へと運びつつ、

じっくりと相手のスキを伺いながら、北斗百烈拳を仕掛けていくのだ。


筋肉に蓄えられているグルコースの備蓄である筋グリコーゲンは、

ケンシロウの革ジャン破りで使い切ってしまう程に少ないが、

これを乳酸に変換することで、その後の持久戦をしのぐシステムが、

原始人類の狩りの習慣から築かれたのでは?

と私は仮説を立てた。



グルコースだけでなく、グルコースを変換した余剰産物?の

乳酸すらも巧みに利用できたからこそ、

わたしたち人類は絶滅することなく、いまこの瞬間まで命脈を保ったのだ。




乳酸がなければ地球生命史、人類史はとっくに途絶えていた。

乳酸と共にあったユーカリアファミリーの命。

乳酸はわたしたちの命の恩人です。

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2016.05.22 | | コメント(1) | トラックバック(0) | 細胞宇宙

コメント

※『糖→乳酸→ミトコンドリア』


ようは、糖→ピルビン酸→ミトコンドリアという流れのオプションとして、

↑ ※『乳酸経路』が出来上がっている、とみなせます。

あるいはこちらの乳酸経路の方が進化的に古くから獲得し使用していた系かもしれない。

生体宇宙は実に複雑系であり、一見すると無駄なように見える系や分子も決してそんな短絡的な脳端末思考では理解できない深く複雑な歴史を有している。

結局、生命現象の正確な理解を妨げているのは、現代人の度し難い短絡思考癖、

なんでも単純に簡単に理解しようとする要素還元論フェチにあるとみなせます。

結局はこうなんです。ハナシは単純なんです。行くつくところはシンプルなんです。

こういう言いぐさは、陰謀論カルトの主宰者が好むセリフ。

おなじようなセリフを健康指南で口にする者が後を絶たない。

こと健康や生命に関わることは、複雑にして深淵なる生命宇宙を扱うゆえに

軽率な発言は常に慎まねばならない。

命に関わる事象だからだ。

そして、安っぽい希望、期待を抱かせることで悩める者たちの絶望をさらに深くすることが多いからだ。

簡単に治る、などと私がなぜ絶対に言わないかというと、ある系、ある方法が誰かにうまくはまっても、

他の誰かには、うまくいかないケースが多々あるからだ。

どんなに万能の原理、万能の方法に見えても、必ず例外が発生する。

その例外に該当した者を路頭に迷わせる医療者であってはならない。

医療者と素人の発言、情報発信の違い、差はそこにある。

正確な表現をしようと思えば、物言いはとことん慎重になる。

乳酸をワルモノに仕立てなかったことは、そういうわけだったのだ。

2016/05/22 (日) 08:56:20 | URL | 今村光臣 #- [ 編集 ]

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